2018.06.09
【日替わりレビュー:土曜日】『シスコン兄とブラコン妹が正直になったら』葉乃はるか
『シスコン兄とブラコン妹が正直になったら』
ゲーム『リトルバスターズ!』にもとづくコミックアンソロジーへの参加や、“肉食系”を目指すお嬢様を描いた学園コメディ4コマ『残念肉食ウサ子さん』で知られる、葉乃はるか先生の新作『シスコン兄とブラコン妹が正直になったら』の初単行本が発売中だ。
サイコミでWeb連載中の本作は、その名の通り兄妹の関係性をメインにしたラブコメである。
幼い子供のころ結婚式ごっこで愛を誓い合った兄妹、律(りつ)と詠(うた)。
高校生になっても仲良しのまま、妹・詠は毎日のようにお兄ちゃんの部屋へ入り浸っては一緒にゲームを楽しんでいる。
ある時、兄・律はクラスメイトに無理やり誘われたカラオケ合コンで同じ高校の女子に言い寄られて困ったことになり、断る口実として「実は俺 彼女いるから もうみんなと遊ぶのは控えたいんだ」とウソをつく。そのさい“彼女”として紹介したのが、友達に顔を知られていない妹だった。
それ以来、兄妹は人前では恋人のフリをして家に帰ればいつもどおりただの家族に……と思いきや、昔からぼんやりと温め続けてきた気持ちに火がついて、一つ屋根の下でお互いの言動を意識してはドキドキ胸を高鳴らせるようになる、というのが主な筋になっている。
兄妹ラブコメというと、溺愛してくるお兄ちゃんに妹が迷惑するとか、逆にぐいぐい迫ってくる妹を兄が必死にかわすなど一方通行な作品も多いなか、こちらはシスコンとブラコンでベストマッチ。
片想いストーリーはしばしば、気持ちが通じるとそこで話が終わってしまうからというメタな都合によるものがあるが、いや両想いから始めてもやりようはあるんだよな~と本作を読んでいるとしみじみ思わされる。
そこで特に面白いのが、恋人の“フリ”のあつかいだ。
律と詠は友達に対する偽装とは別の次元で、兄妹関係を維持しつつ恋心を表現する手段として恋人ごっこの形を利用する。恋人のフリのフリという一周まわったふるまいを通して本気の好意を描いていくわけだ。
それによって兄と妹は男と女に変わることなく、兄妹のまま恋人関係に向かっていく。この絶妙な機微!
なんたって第1話冒頭の結婚式ごっこのシーンからして、詠の宣言は「お兄ちゃんをあいします」なのだ。「お兄ちゃんを」である。
ヒロインはあくまでも妹キャラクターであることを徹底しているところが、本作の美点である。
©葉乃はるか/講談社