2018.06.10

【日替わりレビュー:日曜日】『潜熱』野田彩子

『潜熱』

ヤクザ×女子大生の純愛ラブストーリー。単行本の帯に書かれているアオリは1巻が「悪い人を、好きになりました。」で、2巻は「彼の闇すら、すべて愛おしい。」

これらのワードを聞くだけだと、ロクなことにならなさそうとしか想像できませんが……はい、現状のところは、正解です

本作『潜熱』は、IKKI新人賞・イキマンを受賞、「自分達がいる世界はマンガだ」と登場キャラが気づいているという、ある種禁じ手ともいえるメタフィクションを展開する『わたしの宇宙』で話題を集めた、野田彩子先生が現在「マンガワン」で連載する作品。

主人公の瑠璃は、高校までを女子校で過ごし、現在はコンビニでバイトをするどこにでもいるような普通の女子大生。ある日、コンビニにタバコを買いにくる、常連のスーツ姿の妙齢の男性と出会いますが、ヤクザかもしれないから気をつけるようにとバイト仲間からは警告されます。しかし、瑠璃はこれまでの人生では出会ったことのない「危ない人」になぜか強く惹かれてしまい、バイト上がりに自身から声をかけてしまって……というのがお話の冒頭。

読んでまず一番最初に頭に思い浮かんだのは、「やっぱりじゃねえか!その男はやめておけ……!」という圧倒的危険信号
だって、ヤクザで自分の親ほどの年齢のオッサンで、バツイチ子持ち(子供は瑠璃と同い年)、愛人はこれまでにたくさん(1人は心を病んで自殺)と、たとえ愛し合うことができたとしても、平穏な普通の生活は全くもってイメージ出来ない……!

しかし、そんな読者の心配をよそに、瑠璃はどっぷり逆瀬川さんのキケンすぎる沼にずぶずぶとはまっていってしまいます。

捨てていいからと電話番号を渡されりゃあ、その場で着信を残しちゃうし、
キャバの姉ちゃん用に買ってたバッグを、とあることの詫び代だと渡されたら初めてのプレゼントだと喜ぶし、
息子から同い年の女に手を出すなと激高されたので、ぶちキレて息子をノシている逆瀬川の姿を見て、愛の告白をしてしまったり……。

もう完全に、熱く熱く火がついてしまった自身の恋の炎を止めることが出来ない様子。

そんな激情的で猪突猛進な瑠璃に対して、逆瀬川はやめておけと親友・トモちゃんももちろん警笛を鳴らします。しかし、トモちゃんはトモちゃんで、逆瀬川の部下の若いヤクザに惹かれており、年齢などの多少の違いはあれど、完全に類友
世の中にはこんなにも男性が溢れているのに、2人揃ってどうしてそんな狭い領域のタイプの男性に惹かれてしまうのか……。

たしかに、男の私から見ても、逆瀬川さんは色気があり、名実ともに圧倒的な力を持ち、強面の中にふと見せる可愛らしいギャップもあり、正直魅力的に映ってはしまいます。ただ、それはテレビや映画の中で見るヤクザに対しての気持ちと同等で、恋愛相手としての「異性」と考えるのはやっぱりハードルが高い……。

人の恋路にケチをつけるのは野暮ってもんですが、元々恋愛経験が少なく男性への恐怖心すらあった瑠璃が、一発目に突っ込む道ではないことは、自身の数少ない人生経験を踏まえてもわかります。今後が心配で仕方ありません。

そんな中、瑠璃は2巻でも、更に逆瀬川への想いを燃え上がらせていきます。話が進むにつれ、瑠璃は女性として徐々に強くなっているようにも見えますが、果たしてそれは本当に強さなのか、底の見えない闇でもがいているだけなのか。

また、逆瀬川を愛した末に心を病み自殺した女性を姉に持つ、蒲生田という女性も登場。彼女も逆瀬川と関わったが故に心をゆがませてしまった一人。蒲生田と瑠璃の邂逅はいったいこの恋路にどのような影響を与えるのか……。

もはやサスペンスを見てるかのようなひやひや感を拭えない本作ですが、どんな終焉へとたどり着くのか、一緒に見守って参りましょう。

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この記事を書いた人

八木 光平

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