2018.06.29

【インタビュー】『広がる地図とホウキ星』描く調子「読者の皆さまにも、一緒に旅をしてほしい」

魔法学校に通う少女たちの日常と冒険を描いた、ノスタルジックな世界観が心地よいファンタジー4コマ『広がる地図とホウキ星』

途中、掲載誌の「まんがタイムきららミラク」が休刊するものの、ニコニコ静画の「きららベース」に移籍して連載を継続。6月22日に、完結巻となる2巻が発売されました。

『広がる地図とホウキ星』2巻書影。

あらすじ:首都にある魔法学校に通うため、故郷を離れる少女・リン。長い旅、そして慣れない街での学校生活で出会う人や課題、出来事は初めてだけど、楽しいことばかり!(「きららベース」より)

そこで今回は、『広がる地図とホウキ星』の作者・描く調子先生にインタビューを実施。制作秘話や、創作活動にかける想いなどを伺いました。

描く調子先生にとって、本作はマンガ家としての初連載、初コミックス作品でもあります。はじめはまっしろだった先生の「地図」にはいま、どのような世界が広がっているのでしょうか──?

(取材・文:ましろ/編集:コミスペ!編集部)

背景がどんどん変わっていく物語を描きたかった

──描く調子先生は、『広がる地図とホウキ星』で初めて本格的にマンガを描かれたとのことですが、きっかけを教えていただけますでしょうか?

主人公のリンが故郷を旅立つところから、物語は始まる。

描く調子先生(以下、描く調子):昔からpixivTwitterにイラストを投稿していて、それを見た今の担当さんに声をかけてもらいました。小学校の卒業文集に「マンガ家になりたい」と書いたくらい、長年の夢だったので、二つ返事でOKしました。

担当編集:描く調子先生は、絵がうまいのはもちろん、アニメーションGIFなど「動き」のあるイラストを描けるところがマンガ向きだなと思いました。色々なジャンルの絵も描けますし、そういう方の作品はマンガとしても成立しやすいんです。

──連載を終えられた、今のお気持ちを一言。

描く調子:自分の全力を出し切れたという達成感と、もっとこうすればよかったという反省が半々でしょうか。

──反省というと、具体的には?

描く調子:最初の作品だからということで、自分が描きたいものを描けるだけ描いてみようとアクセル全開で突き進んでいった結果、詰め込みすぎてしまった気がします。読者の方に伝わりにくい部分もあったかな……と。

特に、劇中の世界観や空気感を説明するのに力を使いすぎて、キャラクターの内面を掘り下げる時間を割けなかったのが反省点ですね。

──ただ、主人公のリンたちが暮らす西洋風の街だけでなく、エジプト風の街、日本風の街も登場するなど、まさに世界観の多様さが本作の魅力だったと思います。特にお気に入りのエピソードはありますか?

描く調子:いま言われた、EP11の船でピラミッドの街に行く回、EP14のバスで田園風景の街に行く回、あとEP19の温泉回なんかはよく描けたかと思います。

ヴェリの故郷は、ピラミッドが建つエジプト風の街。

『広がる地図とホウキ星』を始める前に担当さんと打ち合わせをしたとき、「ファンタジーをやるにしても、何か独自性を出したいね」という話になって。そこで考えたのが、バスでの旅など、作中の背景がどんどん変わっていく物語だったんです。

ファンタジーものにしろ学園ものにしろ、世界観は一定というか、基本的に背景は同じですよね。リンたちにあちこち旅をさせることで、本作ならではの不思議さや、景色のきれいさを表せていたらいいなと思いながら描きました。

「オコメ」という穀物が特産物の、日本風の街に旅をしたことも。

実際には、作中では隣町くらいの距離だったりするんですが、背景がガラリと変わることで世界中を冒険しているような雰囲気が出せたかなと。読者の方にも、リンたちと一緒に旅をしている気分を味わってもらえていたらうれしいです。

アクティブな性格ではないので、ゼルダに共感する

──キャラクターについてもお聞かせください。リン、ゼルダ、ヴェリの主要キャラ3人の中で、描く調子先生が一番好きなのは誰でしょう?

描く調子ゼルダですね。好きというよりは、動かしやすかったです。

メガネっ娘で、どこでも居眠りをしてしまうゼルダ。

キャラクターの役割的にも、活発なリンとヴェリがイベントの着火剤で、ツッコミポジションのゼルダが一歩引いた場所からコメントするという流れが確立していました。

自分自身、あまりアクティブな性格ではないので、ゼルダの考え方やリアクションの方が想像しやすかったのかもしれません。

火魔法が得意なリン、雷魔法が得意なヴェリ、氷魔法が得意なゼルダ。魔法の属性もそれぞれの性格にマッチしている。

──サブキャラクターで印象に残っているのは? 個人的には、リンたちの先生がかわいくて好きでした。

お茶目でかわいい、リンたちの先生。

描く調子:ありがとうございます(笑)。先生は、我ながらいいキャラにできたと思っています。

逆に、予想外に面白くなったのは、機械人の「イーサン」です。作品の中でも異端なキャラですが、うまく周囲になじみつつ、どんどん愛嬌が出ていい感じに転がってくれたかなと。

「古代兵器を守る」という使命を帯びたイーサン(だけど有給休暇の取得は可能)。

──終盤に登場する魔界の住人のデザインは、やはり「艦これ」の深海棲艦から影響を……?

描く調子:はい。「艦これ」をプレイしたことがある方なら、完全にインスパイアされたデザインだなとわざと分かるようにしています。

ニコニコ静画のマンガに「港湾棲姫(鬼)」のタグがつけられた魔女王様。

自分自身「艦これ」にハマっていて、pixivやTwitterでイラストもよく投稿しているので、そこをきっかけに『広がる地図とホウキ星』を知ってくださった方もいると思うんです。そういった方に向けた、ある種のファンサービスでもありました。

「2巻の予定はない」とは言ったものの……

──最後にリンたちが「星の海」に行く展開は、最初から決まっていたのでしょうか?

描く調子:いえ、特に決めていませんでした。そもそも、EP20の水の中に行く話、EP21の魔界に行く話、EP22(最終話)の「星の海」に行く話は、もともとは独立したエピソードだったんです。

大掃除中に見つけた腕輪をきっかけに、リンたちの旅は水中、魔界、そして「星の海」へ。

2巻でまとめることになり、いまある材料でラストにふさわしいものはないか探したときに、どうせなら最後はリンたちに一番遠いところまで旅をさせよう、と。そこでこの3つをピックアップして組み合わせた結果、あのような展開になりました。

──「まんがタイムきららミラク」が休刊して、WEBの「きららベース」に移籍したことで、マンガの描き方などに変化はありましたか?

描く調子:WEBとは直接関係しませんが、「きららベース」に移籍するタイミングで、画面の情報量についての考え方が変わりました。疲れているときに自分のマンガを読むと、背景などがうるさすぎて、セリフが頭に入ってこないことがあったので。

──意図的に情報量を少なくしたということでしょうか?

描く調子:そうですね。また聞きした話ですが、あるマンガ家さんが、「自分が思っているよりも、絵を通して伝えたい内容の半分も伝わらないものだから、描き手が考えている情報の2倍も3倍も描き込まないといけない」ということを言ったらしいんです。

それを自分は、背景などもできるだけ細かく描いた方がいいと解釈していたんですが、いま思うと「伝えたいことを取捨選択するべき」という意味だったのかなと。キャラの表情や言葉を伝えたいのなら、背景は描かない方が伝わりやすいのではと考え直しました。

EP16以降は、WEBに掲載されたエピソード。

単行本2巻のEP16から、「きららベース」移籍後のエピソードになります。いまお話しした観点で読んでいただくと、「何か違うな?」と思ってもらえるかもしれません。

──蒸し返す形になってしまいますが、以前Twitterで、「2巻が出る予定はない」と仰っていたと思います。ファンのひとりとしてもかなりショックだったのですが……。

描く調子:あれは……(苦笑)、いまとなっては解釈違いというか、自分の勇み足でした。

単行本1巻の売れ行きを見る限り、もともと2巻を出せるかは微妙なラインだったみたいです。そのタイミングでミラクが休刊することになり、「きららベース」に移籍するか、このまま終わらせるかという話を担当さんとしました。

その結果、何らかの形ではまとめたい、ここで畳んだら2巻を出す材料も完全になくなってしまう、と。まずは描き続けてみましょうということで、「きららベース」に移籍した経緯があります。

担当編集:ミラクの休刊が決まったころに書店回りをしていた弊社の営業も、「『広がる地図とホウキ星』は続けなきゃ駄目だよ」とお叱りを受けたらしく……。熱いファンの方々に支えてもらった作品だったと思います。

『魔女の宅急便』の影響は、受けていないはずがなく

──描く調子先生ご自身についてもお伺いします。最近読まれたマンガで、おすすめの作品があれば教えてください。

描く調子:せっかくなので、アニメ化されていない作品を。続きがめちゃめちゃ気になっているのは、『図書館の大魔術師』ですね。

先ほどお話しした、自分のマンガでは情報量をセーブしようとハンドルを切ったときに読んだんですが、この作品はすごく描き込んでいるのに画面がうるさくないんです。

むしろ重厚感が増していて、「どう描いたらこういう風になるんだろう……」と、カウンターパンチをくらったような気持ちでした。

あとは、ジュール・ヴェルヌの小説のコミカライズである『地底旅行』もよかったです。冒険パートの描写の参考になるんじゃないかという目的でしたが、純粋に面白くて読みふけってしまいました。

──『広がる地図とホウキ星』という4コママンガを描く上で、参考にされた作品はありますでしょうか?

描く調子:自分にとってはライバルにもなりますが、「きらら」系の4コマはたくさん読みました。

特に『魔法少女のカレイなる余生』『まちカドまぞく』は、「魔法」や「魔法少女」がテーマの作品ということもあって、参考になったと思います。


また、『はんどすたんど!』は、会話のテンポや女の子たちのやりとりが面白くて好きでした。

──ファンタジーマンガという観点ではいかがでしょうか?

描く調子:少しでも作品づくりの足しになればと、魔女が出てきそうなアニメや映画は片っ端から観なおしました。具体的には、『リトルウィッチアカデミア』や、鉄板すぎますが『ハリー・ポッター』シリーズでしょうか。

──似ている、と言ってしまうと失礼ですが、『魔女の宅急便』の影響も受けているのかなと感じました。

描く調子:むしろ、あそこの道を通らないわけにはいかないだろうと(笑)。もちろんガッツリ影響されていて、作品の色々なところに、自分なりのジブリ映画のよさを織り込んだつもりです。

ニシンのパイが嫌いな女の子はいない、やさしい世界。

ちなみに、機械人のイーサンのモチーフは、お察しの通り『天空の城のラピュタ』のロボット兵です。

──pixivやTwitterでアニメーション動画を投稿されていますが、動画制作にも興味がおありなのでしょうか?

描く調子:はい。最初のきっかけは、新海誠監督の商業デビュー作『ほしのこえ』を観たことでした。ひとりでこんな映像が作れるんだ……って、すごく感動したのを覚えています。

そこから動画制作にハマりだして、新海監督が有名になる契機にもなった「CGアニメコンテスト」にも2度応募し、幸いなことにどちらも準優秀賞をいただきました。

10年近く前の作品なので……今見るといろいろつたない部分もあるかもしれません。ただ、マンガを描くことにも通じますが、動画の中で世界を丸々一つ作り出す感動や喜びは何物にも代えがたいものがありました。自分のモノづくりに対するルーツみたいなものは感じて頂けるかもしれません。

そして、これらの制作を通して動画を作るスキルはある程度身についたので、せっかくならSNSでも続けていこうと。

担当さんに声をかけていただいたのも、動くイラストがきっかけのひとつでしたし、やっていてよかった、無駄じゃなかったなと思います。

広がる地図と描く調子先生

──次回作の予定などは決まっていたりしますか?

描く調子:構想はまだほとんど決まっていませんが、担当さんには「次もぜひ」と言っていただいていて、自分もそのつもりです。

次は、ファンタジー系とは大きく違うものを描きたいです。特に、本作で描ききれなかった、キャラクターの内面や成長をストレートに見せられる作品にできたら、と。

──描く調子先生ご自身が考える、『広がる地図とホウキ星』の魅力とは何でしょうか?

描く調子:『広がる地図とホウキ星』は、自分がこれまでに触れてきた、色々な作品のいいところ──やさしさ、きれいさ、やわらかさ、美しさをかき集めた作品です。

だから、人が死んだり傷ついたりする事件は起きませんし、嫌味な奴も出てきません。癖のあるキャラでも、どこか憎めない一面があったり。

リンたちのクラスメイト・ネッサ。口調は悪役(中二)っぽいがいい子。

世の中、そんなにうまくいかないことも多いですが、やっぱり自分は読んでいてほっとするような作品が好きですし、自分の作品を読んでくれた方には幸せな気持ちになってほしいので。趣味趣向に関係なく、どんな方にも読んでいただけるマンガになっていると思います。

──最後に、読者の方にメッセージをお願いいたします。

描く調子:連載が終わって実感したのは、やっぱり自分はマンガを描くのが大好きなんだなということでした。本作はこれで一旦おしまいですが、これからもマンガを描き続けていくつもりです。

この記事で興味を持っていただけた方は、ぜひ読んでみてください。その応援が、次の作品づくりへの燃料にもなります。応援よろしくお願いします!

──本日はありがとうございました。

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