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2019.01.11

【まとめ】それはまるで絵本のように。ファンタジー4コマの世界へご案内

かつては、サラリーマンを主人公にした会社もの、一家のお母さんを主人公にしたファミリーものが多かった4コママンガ。近年は若年層に向けて、ファンタジー要素を取り入れた作品も増えてきました。

そこで今回は、おすすめのファンタジー4コマをいくつかご紹介したいと思います。

『棺担ぎのクロ。~懐中旅話~』

まずはこちらの作品。

一言で表すと、とにかく「黒い」です。枠の外側が黒く塗りつぶされているというのもありますが、ストーリーがあまりに鬱々としていて、単行本を1冊読むたびに呆然としてしまい、しばらく何も手につかなくなる。
比較的ファンタジー4コマが多い「まんがタイムきらら」の作品の中でも、本作はひときわ異彩を放っていました。

黒い魔女に呪いをかけられた、旅人の少女「クロ」。コウモリの「セン」に、猫耳双子の「ニジュク」「サンジュ」を連れて、呪いを解くためにその魔女を探しています。
童話のような読後感のいいエピソードや、寓話のような教訓めいたエピソードも時おり挟みつつ、物語は少しずつ核心に。

呪いによって、クロは全身を黒いシミに蝕まれています。しかしそれは、進行すると死ぬといった生やさしいものではありません。
魔女は、クロから「死」を奪いました。呪いの行きつく先は、死すら許されない「終わり」

魔女を探しているように見えて、本当は魔女の呪いに追われ続けている。
最後に自分が入れるようにと棺を持ち歩いているのに、死ねない。
クロが背負っているのは、棺ではなく、矛盾なのかもしれません。

途中、3年近く連載が中断したこともありましたが、先日発売された単行本7巻で、物語はついに完結。
クロの長い長い旅の終着点に待ち受けているのは、希望か。それとも――。
ファンタジー4コマの原点にして頂点である本作の結末を、あなたも見届けてください。

『夜森の国のソラニ』

アニメ化もされた『うらら迷路帖』の作者・はりかも先生の、マンガ家デビュー作。
「まんがタイムきらら」系列の雑誌で連載されていたこと、闇を連想させる世界観など、上で紹介した『棺担ぎのクロ。』との共通点も多いのですが、こちらは意外とポップな雰囲気で読みやすいです。

心に傷を負い、眠りから覚めたくない人がやって来る、明けない夜の国「夜森」
記憶をなくしてそこに迷い込んだ主人公の少女は、森の管理人である「夜森」のよく知る人物に似ていたことから「ソラニ」(空似)と名づけられ、夜森と共同生活を送るように。

夜森の住人たちは、現実世界とは少し違った格好をしています。
大切な人を待ち続ける少女は、織姫の姿。叶わない恋をしている少女は、人魚の姿。それは、住人たちが目覚めたくない理由にも直結していて。
和と洋が入り混じった夜森の世界で、自由気ままに暮らす住人たち。その笑顔が明るいほど、彼らが負った傷の深さを想像してしまい、胸が締めつけられます。

暗いけれど温かい夜森の世界で傷を癒やした住人は、ひとり、またひとりと目を覚ましていく。
夜森とともに彼らを見送っていたソラニですが、物語の終盤、ついに自分自身の記憶と向き合うときが訪れます。

夜、森、夢、童話、悩める少年少女。はりかも先生は、この作品に自分が好きなものを詰め込んだと仰っていました。
きちんとマンガを描くのは初めてだったためか、確かに荒削りな感じもする。だからこそ、キャラクターたちの弱さや痛みがダイレクトに伝わってくる、今でも忘れられない一作です。

『針棘クレミーと王の家』

英国紳士・アーサーの家に、クレミーと名乗るハリネズミがやって来ました。
どうして名乗っているのが分かるかというと、身につけると動物の言葉が理解できるようになるという、不思議な指輪をアーサーは持っているから。なしくずし的に、クレミーはアーサー家で暮らすことになります。

クレミーとアーサー、黒猫のボニートにダルメシアンのポルカなど、小さな「王国」の住人たちの日常は、騒がしくも穏やか。
フリーハンドで引いたようなコマの枠線もあいまって、牧歌的で、どこか懐かしい雰囲気が漂う作品です。

好奇心旺盛で、目に映るものすべてに興味を示すクレミー。転びながら自転車の乗り方を覚えていくように、クレミーもまた、時に痛みを感じつつ、大切なことをひとつひとつ知っていきます。

おばけだと思っていたのが、実は家の仕事を手伝ってくれる妖精・エサースロンだったことで、よく知りもしない相手を悪く言ってはいけないとクレミーは学びます。
しかし、悪さをする妖精・プーカとの出会いによって、世の中にはどうやっても分かりあえない相手がいることもクレミーは学びます。
どちらも、最初から他者との関わりを避けていては、ずっと気づかないままだったでしょう。

説教くさくはないけれど、社会で生きていくための教訓が散りばめられた、寓話という表現がピッタリの英国ファンタジー4コマ。
日本はもちろん、全世界の子どもたちに読んでほしいですね。実際、吹き出しのセリフも横文字で書かれていて、翻訳もしやすいと思うので……。

『ニャンコロカムイ』

『ゴールデンカムイ』のヒットによって、アイヌを題材にしたマンガをもっと読みたいと思っている方も多いのではないでしょうか。そんな方にぜひオススメしたいのが、この作品です。

主人公のモデルは、アイヌの伝承に登場する英雄「ポイヤウンペ」。それが、本作では半人半猫の「ポイニャウンペ」(略して「ポイニャン」)になっているのは、『ポヨポヨ観察日記』樹るう先生ならではのアレンジでしょう。

とある事情から猫の姿になってしまったポイニャンが、人間の悪党や悪神を相手にちぎっては投げの大立ち回りを演じる、痛快アクション4コマ。
ギャグ描写としてではあるものの、流血シーンや下ネタが盛りだくさんの荒々しい展開は、成年コミック誌の箸休めマンガを描かれていたころの作者の作風を彷彿とさせます。

それと同時に、本作では「人間の業の深さ」という重いテーマも扱っています。
かつては自然の恵みに感謝し、神様を敬っていた人間たちですが、次第に与えてもらうのが当然と考えるようになる。そして天罰を受けて反省するものの、時間が経てばまた同じことを繰り返す。

特に、終盤に発生する事件のシーンでは、「人間はどうしてこんなにも愚かなのか……」と、まさに神視点で憤りを感じてしまいました。
けれど、決してバッドエンドではありません。いつの時代も、人間のやっていることは変わらないんだなあという諦めもありつつ、だけどそうやって私たちはこれからも生きていくんだろうと思わせる、救いのあるラストになっているのです。


ファンタジー4コマの話で思い出すのは、『夜森の国のソラニ』はりかも先生が、自身の画集で語っておられた以下のコメント。

ソラニを描き始める前に、漫画を12ページ描くのではなく絵本のカットを92コマ描くつもりで作画してください、と言われたのを今でもお守りのように呪いのように思いながら毎月ひとこまひとこま描いています。

「絵本」というのは重要なキーワードで、4コマという枠の中でファンタジーを描く意味にもつながっていると思います。

何かと忙しい昨今ですが、ファンタジー4コマを読むときはぜひ、ひとつひとつのコマをじっくり噛みしめるように読んでみてください。

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この記事を書いた人

ましろ

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