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2018.06.29

【日替わりレビュー:金曜日】『弟の顔して笑うのはもう、やめる』神寺千寿

『弟の顔して笑うのはもう、やめる』

神寺千寿『弟の顔して笑うのはもう、やめる』の4巻が発売されました。

作者の神寺千寿先生は男性向け成年マンガ(いわゆるエロマンガ)も手がけており、どちらかというと男性読者への知名度の方があるかもしれません。今回ご紹介する『弟の顔して笑うのはもう、やめる』は、「ガールズポップコレクション」というレーベル。あまり馴染みがないかもしれませんが、いわゆる女性向けのエッチなマンガがメインの、ティーンズラブレーベルとなっています。

じゃあエッチなのかって話なのですが、全然エロくないです。むしろティーンズラブでこれ大丈夫なのか?って心配になるぐらいに、エロ要素は控えめ。さらにさらに心配になるぐらいに、めちゃめちゃ重いです。なので初めに断っておくと、本作は決して万人受けするタイプの作品ではないということ。むしろ好きな人は極めて限定されるような、間口の狭い作品といえるかもしれません。

作品の内容は、タイトルからもなんとなく伺い知れるように、弟が姉に想いを寄せているという姉弟もの。主要登場人物は4人なんですが、なんていうかみんなして想いが重くて、こじらせてるんですよ。今回レビューを書くにあたって改めて読み返したんですけど、まともで明るい人はいないのか、と。

主人公の蒼介は高校2年の男子。姉の美羽とは血の繋がりは無く、ずっと美羽へ想いを寄せてきました。けれども家族ですから、そんな気持ちを発露することも出来ず、いい加減な性格に見せて、その気持をごまかしながら不真面目に適当に生活する毎日。なんていうか、スレた性格です。のらりくらり来たものの、姉に彼氏が出来たことで焦りが生まれ、段々と溢れ出る感情に対する制御が効かなくなってきます

そんな彼の想い人でもある姉の美羽は、1つ上。ふわふわとした可愛らしい見た目ですが、性格はしっかり年上のお姉さんという感じ。蒼介の紹介で、彼の親友でもある西条と付き合っていますが、その気持ちが本当は誰に向いているのかは、よくわからず。なんとなく収まりの良さから、彼と付き合っている感じが無くもない。蒼介に対しての態度もどこか中途半端。他の3人はその好意が誰に向いているのか丸わかりなのですが、彼女の場合は唯一そこが雲に隠れて見えない感じ。人一倍思い悩む姿が多く、作中に出てくるモノローグの多くは彼女のもの。

美羽の彼氏である西条は、学年こそ蒼介と同じですが、心臓の病気で1年休学していたため、年齢は美羽と一緒。人気小説を多数発表している人気小説家で、いわゆる有名人の類い。引っ込み思案で控えめな性格なのですが、こと美羽についてはとある出来事をきっかけに強い執着心を抱くようになり、積極的なアプローチから見事彼氏の座を射止めました。けれども心の中は嫉妬まみれ。彼氏という立場ではあるのですが、美羽の気持ちがどこか自分に向いていないような想いに囚われ、そこに蒼介の影を感じることで、嫉妬と友情の狭間で苦しむことになります。

そしてもう一人が、蒼介と美羽の幼なじみで、高校1年の百華。彼女は小さい頃から蒼介一筋。けれどもずっと見ているからこそ、蒼介の気持ちが美羽に向いていることは、嫌なほど思い知らされてきました。それでもつけ入る隙があれば近づきたいと、蒼介と体の関係を持っており、幼なじみでありセフレでありみみたいな、なんともただれた関係を築いております。家庭に問題があり、蒼介に負けず劣らず荒んだ性格。純粋な「好き」という気持ちは人一倍強いのですが、どうにも報われない可哀想なポジションです。

はい、というわけでこんな4人でした。彼らがずーっとモニョモニョモニョモニョし続けるというのが、このお話。なんていうか、みんな「好き」が強すぎて、読んでてしんどいんですよね(褒めてます)。読んだ後ごっそり体力持ってかれるような。

蒼介と百華なんて、もう何年もその想いを温め続けているわけですし、西条も負けず劣らず強い気持ちで美羽に迫るわけで。特に西条と蒼介は、親友という立場から互いにあからさまに出し抜くことはしないのですが、相手に悪意が伝わる感じであれやこれやちょっかいを出すので、静かにHP削られている感じがすごい。そして家庭の事情からどんどん荒んでいくも、美羽しか見ていない蒼介に全く相手にしてもらえない百華の救われなさが、そこにさらに拍車をかける悪循環。もう、どこを向いても明るさが無い。

そんな重苦しい関係性を、モノローグを重ねて心情描写するわけですが、そういう雰囲気の作品が好きな人、いるでしょう? そんな作品が好きな奇特な人に、ぜひともオススメしたい。

あと絵柄まで重たかったらもう救いよう無いぐらい暗い作品になっちゃうんですが、神寺先生は成年マンガでもロリっ子を描くような人だったりするので、そのキャラクター造形は比較的可愛らしく、また風景も非常に美麗。登場人物たちの中に渦巻く汚い感情やただれた関係が、その絵柄によってうまく中和されています。雨や日差しや、夜景が、挿し込まれるモノローグとよくマッチして、なんとも言えない素敵な雰囲気を醸し出しているのですよ。

というわけで、長々と書いてきましたがそろそろまとめないと。えーと、気持ちの良い展開なんて一切ないです。いつも誰かが思い悩んでいて、「え、救い無しで終わるの?」みたいな感じが、1巻から4巻まで続いています。……やばい、オススメするつもりで記事書き始めたのに、これはしっかりオススメできているのか自信が無い。けれども、こういう作品が好きな人が持つセンサーに引っかかりそうなワードや言い回しは、ちゃんと落とし込んだつもりです。
 
どう転んでも。笑顔で終わることはないであろう、ヘビーな物語。甘い甘いラブストーリーも良いですが、たまには趣向を変えて、こんな悲恋ど真ん中な、切なく苦しいラブストーリーなんていかがでしょうか?

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この記事を書いた人

いづき

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