2018.07.07
【日替わりレビュー:土曜日】『STARTING GATE! -ウマ娘プリティーダービー-』Cygames, S.濃すぎ
『STARTING GATE! -ウマ娘プリティーダービー-』
「ウマ娘プリティーダービー」は、Cygamesがゲームを基軸にして音楽・マンガ・アニメなど多彩なメディアミックスを展開中の企画タイトルである。
我々の世界に実在した競走馬の名前と魂を宿して別世界に転生したウマ耳&ウマ尻尾の少女たち、通称“ウマ娘”が特訓を重ね、一大スポーツ・エンターテインメントのアスリートとして国民的人気を誇るレースで競走する──。
そんな大胆な着想に加え、「アイドルマスター」でおなじみ石原章弘コンテンツプロデューサーらしいアイドルのライブ要素まで重ねられた世界観が一体どんなものになるのか。
早い段階で公開されたPVやテーマソング「うまぴょい伝説」がインパクト抜群すぎたこともあり、はじめは用心半分の注目を集めていたが、今年の春シーズンに放映されたテレビアニメ版が競走馬たちの生い立ちから性格、脚質、史実のレース展開まできめ細かく気を配った誠実なアプローチをとった結果、大好評を博すことに。
ネット上ではアニメ各話にちりばめられた元ネタを競馬ファンが紹介することで競馬を知らない者も作品理解を深めていくなど視聴者間の情報共有が活発化し、理想的な盛り上がりかたをみせた。
奇抜なアイディアは奇抜に終わらせず、手堅いアプローチをとってこそ好感を生むという教訓がありますねぇ。
さて、そんなアニメ版に先行して2017年3月から「サイコミ」にて月2回更新でWeb連載中のマンガがこちら、『STARTING GATE! -ウマ娘プリティーダービー-』である。
田舎から出てきた主人公スペシャルウィークが、全寮制の学園「トレセン学園」に入って成長していくという方向性と第1話の出だしはアニメと共通しているが、基本的にはマンガ独自のオリジナルストーリーになっている。
アニメは菊花賞や天皇賞など実在のレース名を出して、「チームスピカ」と「チームリギル」というチーム単位を主にレースデビュー後の競走が描かれたが、マンガにはコーチやチームは未登場。学園内にある二つの寮に在籍するウマ娘たちが学内レースや試験レースに挑む様子が中心の、学園青春ドラマの趣が強くなっている。
アニメでは画面の後ろでちょくちょく愉快な大食い姿を見せていたオグリキャップの意外な内面や、ケンカ友達ぶりがほほえましいウオッカとダイワスカーレットの関係性などキャラ単位の人間模様(ウマですが)にたっぷり尺をとっているため群像劇としての枠組みが広く、アニメ版のファンにも楽しみどころが多い。
なかでも最大の注目点は、先行逃げ切り型のレーススタイルを極めたサイレンススズカの精神面の掘り下げだろう。
一番でゴールすれば、きれいな景色を見ることができる。だから他のすべてを引き離したい。きれいな景色にまじりけがないように「誰も視界に入ってほしくない」とまで述べるスズカ。
それが学園生活でも他人を寄せ付けない孤高の立場に自らを置くことにつながるが、過去の負傷の影響でメンタル面が停滞して孤高は孤独に転じていた。
それが、明るく屈託のないスペシャルウィークとの出会いで刺激を受け、大きな変化へとつながっていく様子はマンガ版独特の重みをもった流れになっている。
最近公開された第21話でスズカの孤独感の解消にとうとう一段落ついたので、そこへ向けて、単行本やWebで一気読みするのにちょうどいいタイミングといえる。
©Cygames, S.濃すぎ/講談社