2018.07.24
【日替わりレビュー:火曜日】『双亡亭壊すべし』藤田和日郎
『双亡亭壊すべし』
言わずもがなの藤田和日郎先生、最新作。もちろん藤田和日郎作品すべてがフェイバリットなんですけど、『双亡亭壊すべし』は、頭一つ抜けているくらい惚れ込んでおります!
建築物が悪意をもって害をなしてくるホラー、「館物ホラー」には、メディアを越えて名作が多いという個人的な経験論があります。
スティーブン・キング『シャイニング!』、伊丹十三監督の映画『スウィートホーム』、ゲーム『コープスパーティー』や『クロックタワー』、小野不由美の『悪霊』シリーズなど枚挙にいとまがありません。
館物ホラーの醍醐味は、閉じ込められて逃げ場のない絶望の演出。『双亡亭壊すべし』の、自画像に吸い取られて戻ってきた時は別人に豹変してる不気味な仕掛け。冒頭から語られる首相の昔話では、屋敷に乗っ取られた幼馴染の少女の、眼窩の奥から手が生えてきて……ってトラウマものの絶妙な掴み。独特の藤田和日郎タッチの絵柄に恐怖を煽られます。
ホラードラマって、出来事が起こる前のディティールの積み上げによる「静」のパートと、怪奇現象に見舞われる「動」のパートに分かれているものが多いんです。ところが『双亡亭壊すべし』は、ずっとあちこちで何かが起こっている「動」が連続しています。その理由の一つは、群像劇だから。
巫女のお姉さん、霊能力者、超能力者、特殊能力を得た少年、旧帝国軍人、総理大臣……様々な人物が、様々な目的を持って双亡亭を攻略せんと行動しています。なので、毎回誰かがどこかでピンチに陥ったり、戦っていたり。
それぞれの人物にスポットを当てながら、細かくシーンチェンジを繰り返すことで、ドライブ感のあるストーリーテリングに繋がっています。ダレる事なく物語にグイグイ引き込んでくれるエンタメ感は、今の時代にも合っている演出なんでしょうね。
お股を開いて極端な横長の前屈姿勢をとる、藤田和日郎お得意の見栄を切るポーズも多用されていて、ファンはここだけでニヤニヤポイントです。
売れない絵描きの凧葉務(たこはつとむ)と、「双亡亭」に引っ越してきた平凡な少年の立木緑朗(たちきろくろう)。異能に対抗する集団の中で、もっとも戦闘力のない二人が心に秘めている「勇気」こそ、「双亡亭」に対抗する最強の武器という熱いロジック。『ジョジョの奇妙な冒険』にも通じる「人間賛美」は少年誌の王道テーマで、胸が滾りますね。
©藤田和日郎/小学館