2018.07.26
【日替わりレビュー:木曜日】『人生山あり谷口』谷口菜津子
『人生山あり谷口』
(今日は木曜日担当・園田さんがお休みのため、日曜日からの出張で、コミスペ!編集部がお届けします。)
突然ですが、山に登ったことはありますか?
SNSを開くと、豊かな大人たちがすっっっっっばらしい景色と、何気に良さそうで高そうなギアを投稿している姿を見かけることもあるかと思いますが(下山後の温泉とビールはお約束)こちらは登山ほぼほぼ初心者の、自然が大好きなイラストレーター・マンガ家の谷口菜津子先生が山に登る、エッセイマンガです。
とか言いつつ、筆者自身は年に一度アルプスや八ヶ岳に行く程度ですがまあまあ装備は揃っている&あちこち行ってはいるのでちょっとだけ経験者目線になってしまうのですが、第一話の高尾山の工程表のスタート時刻がまず間違っている気がする。
14時集合て! もう下山始めてないとそわそわする時間! しかも結局遅刻で15時! そんな時間に登り始める人いない!……と、お気付きの通り、登山の工程の参考にしてね! というマンガではないのです。
このマンガはいわゆる登山マンガではありません。なぜなら、作者の心の内面にフォーカスする部分が超多いのです。身の回りの人が亡くなったり体調を崩したり、そのことで作者のメンタルにずしっと重たいものがのっかかっている様子も生々しい。登山のシーンもキレイな景色や花などに目をくれるわけでもなく、一緒に登る個性豊かなメンバーとの会話の方がメインになるほど。
……でも、多分それでいいんです。実際誰かと山に登る時なんて、道中「しんどいね〜」「これいつまで続くの……?」「早くビール飲みてえ」なんて言い合ったことの方が後々覚えているもんです。景色はスマホのカメラに数枚収まっていれば、それでいいのです。パソコンもスマホも必要ない世界では、おしゃべりだけが娯楽。あとは、頂上を目指すのみ。
全部読み終わった時、『人生山あり谷口』のタイトルがもう一度染みてくるはずです。人生って、上がったり下がったり忙しない。かと思えば、ゆる〜い尾根続きのような時もある。ちょっと壮大ですが、谷口先生の1年間の山を追体験するマンガです。
こちら一冊まるまるフルカラーで、色使いも素敵!です。
もともとイラストのファンだったのですが、マンガのテンポも良く、一冊でさくっと気持ちよく読めちゃいます。外に出たら焼け死んでしまいそうな暑いこの時期に家でじっくりのんびり読んで、9月からの登山のハイライトシーズンに備えてみてはいかがでしょうか。ふと、頭に浮かんだ誰かを誘ってみて。
物語と最初と最後を締めくくる高尾山、とってもいい山ですよ! 桜の時期と、秋の週末は激混みするけど。
©谷口菜津子/リイド社