2018.08.15
【日替わりレビュー:水曜日】『学び生きるは夫婦のつとめ』小雨大豆
『学び生きるは夫婦のつとめ』
ロシア人の少女と結婚しました、生きていくために
広島弁の男子高校生と、ロシア人の少女、2人は夫婦。相思相愛模様を描いた学生結婚4コマコメディは、見ていてニヤニヤな展開ばかりなのだが、残る後味はビターだ。
高校3年生の凛々しい男子・鬼城御伽(おにしろ・おとぎ)と、小動物のような鬼城ポリーナは、籍を入れたばかりの夫婦。御伽は特に生真面目な広島男児。誰もが認めるガチガチの硬派。そんな彼にかわいいロシア人の奥さんができたとなれば、周囲もいじりたくなるというもの。
御伽の幼なじみでマブダチの龍々(りゅうじ)、同人のマンガを描いているクラスの女子・鹿波(かなみ)、幼い頃から実は御伽が好きだった和美人の撫子(なでしこ)など、2人と周囲の個性的な人々を描いた高校生群像劇になっている。
基本は御伽とポリーナの仲良しっぷり、特に赤面しつつも正々堂々とする御伽の愛の深さが、見ていて楽しい作品。何があろうとポリーナを守ろうとするし、一緒に精一杯はしゃごうとするし、ポリーナのスキンシップを照れながら受け入れる。かわいらしくてかっこいい彼、密かに他の女子からモテるのも無理はない。
ただ、タイトルにあるとおりこの作品は「生きる」作品だ。
御伽は半年前、癌の治療をしていた。一命はとりとめたものの、再発の可能性もある。彼の元にやってきた幼なじみのポリーナは言う。
「だったら毎日後悔しないように生きようヨ オトくんがしたいことなんでもするし オトくんが行きたい所どこでも行くヨ!」
2人が夫婦になったのは、幸せに日々を精一杯生きて、幸せに死ぬためだ。といっても実際に死期が近いわけではない。心持ちの問題だ。
一度死ぬことを意識すると、毎日生きていることのありがたさに気づくもの。「もしかしたら死ぬかもしれない不幸」というネガティブな思いが、「ポリーナがそばにいて今生きていられるのは幸せだ」というポジティブ思考にひっくり返っている。「幸せに死ぬ」ことを考えていれば、毎日最大限の努力をして、満ち足りた生活を送れるはずだ。
ポリーナは非常に幼い性格で描かれている。高校生というにはやんちゃで、背も小さい。しかし彼女の前向きな思考は、御伽を支える力強さがある。彼の背中に飛びついておんぶしてもらうのも、御伽の作る料理を美味しそうに食べるのも、大好きなマンガでハッスルするのも、全てが御伽の生きがいになっている。
「長生きしてネ」
愛する人に言われるこの一言は、生きるための何よりの活力だ。
©小雨大豆/講談社