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2018.08.10

【日替わりレビュー:金曜日】『群青にサイレン』桃栗みかん

『群青にサイレン』

河下水希先生がおくる異色作

桃栗みかん先生の『群青にサイレン』の8巻が発売されました。ご存知の方も多いかと思いますが、桃栗みかん先生はあの『いちご100%』の作者である河下水希先生の、女性向けマンガにおける名義。元々は少女マンガ畑の先生なんですよね。

少年誌での連載中はしばらく桃栗みかん名義での作品は発表していなかったのですが、久々に復帰して送り出してきたのが本作。あれだけの恋愛作品を描く先生でしたから、さぞ身悶えるような恋模様を楽しめるかと思いきや、飛び出してきたのは、女子など一人もいない、男臭い(けど汗臭くない)高校の野球部が舞台の青春物語でした。

全然爽やかじゃない

物語の主人公・修二は、小学生時代に野球クラブのエースを目指していたものの、いとこの空にその座を奪われ、野球を辞めてしまいます。時は流れ、高校生になったふたり。久々に空と再会した修二は、身長が小さい空の姿を目の当たりにして「今なら勝てる」と、野球部に入部するのですが……というストーリー。

いかにも爽やかな青春物語っぽいタイトルとなっていますが、爽やかさは全然ありません。あらすじからもわかる通り、主人公の入部の動機がまず不純。

幼い頃にへし折られたプライドを取り戻すべく、いわば逆襲を誓っての入部になるわけですが、まあ返り討ちに遭うわけですよ。それも空は修二の思いとは裏腹に、無邪気に修二を慕っていて、清い気持ちのままものすごいピッチングするわけですから、もう彼のメンタルはボロボロになるわけです。

話が進むごとに暗黒面へと堕ちていく様子は、ある意味壮観。高校生が打ちひしがれてる姿って、不思議とグッと来るものがありますよね。こういう心情描写は、まさに女性向けマンガだからこそ描ける部分であると言えるでしょう。

多彩なキャラ

野球の描写もそれ相応に細かいのですが、やはりメインは野球を知らない女性読者ですから、ルールを知らなくても楽しめるようになっています。主軸となるのは、修二と空との関係からも伺えるように、野球部というユニットをベースにした人間関係のあれこれ。

仲間たちの友情や、挫折や成功、ライバルとの戦いだったり、中学時代から引きずる明るくない過去だったりと、様々な青春模様がそこに。キャラクターも色とりどりで、きっとお好みの登場人物が見つかることでしょう。私は可愛いので空が好きです(単純)。

圧倒的にホモい

と、ここまで色々書いてきたのですが、先立つものは野球でも青春でもなく、そのホモっぽさにあると声を大にして伝えたい。

元々スポーツとホモってのは相性が良いわけですが、本作の場合は自然発生的に移行したのではなく、最初から明確な意思をもってその層にリーチしに行っていることが明白。みんな真面目に野球やってるんですけれど、その描写があからさまで、「明らか狙ってるな…ホモいな…。」と感じる瞬間が3ページに5回ぐらいあります。

そこには明確にカップリングがあるし、色恋にもつながるような劣情激情があるのですよ。わかりやすいところでいうと、本作はヒロインがいないんですよ。脇役レベルでも、女性キャラがほとんど登場することがない。じゃあ誰がヒロインやるの? 男たちでしょう。

特に空なんてその振る舞いが圧倒的にヒロイン的ですからね。とにかくその雰囲気は、試し読みをするだけでもひしひしと感じることができると思います。

セールスは不振のようです

『いちご100%』や『初恋限定』から、甘酸っぱい恋模様を期待して手を伸ばした男性読者は、正面からこれをぶつけられたわけですから、結構振り落とされた人もいるのではなかろうか。

先生曰く売れてないらしいんですけれども、フォロワーの層を考慮するとそれもある意味納得というか……。とはいえ女性向けマンガで恋愛せずに男だけで野球するっていうコンセプトや、野球マンガでも心情描写に重きを置くアプローチだったりといったところは、他で見られるものではなく、どんな作品に仕上がるのかめちゃくちゃ興味深いんですよね。

何より実績あるマンガ家さんが描く物語ですから、絵柄はイカしてるし、物語の骨格もしっかりと、読み応えは抜群。つい先日、掲載誌のYOUの休刊が発表されましたが、どんな形であれ継続して、桃栗みかん先生が描きたかったところに着地してもらいたいところです。ちょうど甲子園シーズンですし、こんな変わり種の野球マンガに手を伸ばしてみるのもアリではないでしょうか?

[※補足]現時点で行き先は不明とのことです。

試し読みはコチラ!

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この記事を書いた人

いづき

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