2018.09.10
【2018年8月】マンガ家が選ぶ 今月の注目!新連載マンガ
毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。
今回は、2018年7月23日~2018年8月26日の間に始まった新連載マンガから「マンガ新連載研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。
『ポンコツが転生したら存外最強』
本日からニコニコ静画内の水曜日のシリウスにて「ポンコツが転生したら存外最強」の連載がスタートしました。ストーリー漫画は初めてだからよろしくお願いします~! https://t.co/F9ewj41uMW pic.twitter.com/Cs9soRjk65
— 海月れおな (@kreona) 2018年8月15日
毎月必ず何作かある異世界転生マンガの一つです! 前回の当記事でもお伝えしましたが、異世界転生マンガは「異世界転生してりゃ何やってもいいんだろ」と言わんばかりのジャンルです! プーチンを異世界転生させたり、温泉に転生させたりとやりたい放題! ですが、本作はさらに新基軸でスゴイ! ギャグマンガ空間のキャラクターたちが異世界へと転生するのです!
つまり、通常の異世界転生は「ふつうの日常」が「異世界」という非日常へと変化し、そこで生じるカルチャーギャップが作品の骨子となるわけです。「ふつうの日常」を送る読者は、登場人物の視点を通じて、自分が異世界へと転生したようなシミュレーションを体験するわけですね。
しかし、本作の主人公たちはもとよりギャグマンガ空間の登場人物なので、「ギャグマンガ空間」から「異世界」へと転生します。通常の異世界転生モノとは根底の土台が異なるために独特の読み味が生まれ、キレッキレのギャグセンスも相まって、新鮮かつアッパーな作品となっているのです。
本作の成り立ちですが、もともと『ポンコツンデレな幼馴染』というギャグマンガがあり、その外伝で異世界転生モノを描いたのが、そのまま連載に昇格されたようなのです。その前提を知らずに読んでしまったため、「ギャグマンガ空間の住人が異世界転生をする」展開に衝撃を受けたのですが、ということは、これを逆手に取って、2つのジャンルの作品を無理やり合体させると新しい読み味になるんじゃないかと、今考えています。
だってさ、考えてみれば『ダンジョン飯』だって、グルメマンガとファンタジーマンガの悪魔合体じゃん。
『さよならミニスカート』
彼女は「女の子」をやめた
……………はずだった。
試し読みはこちらから。https://t.co/vXtDfbB76F#さよならミニスカート#さよミニ#牧野あおい #りぼん pic.twitter.com/0EZTP1LZpD
— りぼん編集部 (@ribon60th) 2018年9月3日
りぼんが性の問題へと踏み込んだ! ジェンダーの波はここまで来たか!
「スカートはあんたらみたいな男のために履いてんじゃねえよ」
というパワーワードが炸裂する第1話。アイドル活動中にファンに切りつけられ、髪を切り、スカートを履くのをやめて、女性であることを辞めようとしたヒロインとその周囲を描く物語です(そしてサスペンス!)。
少女マンガといえば、少女の妄想や願望を肥大化させる作品というイメージがありますが、本作はむしろ逆。女性の女性性を突破し、女性像を更新せんとする骨太なメッセージ性を宿した作品です。
「このまんがに関しては、何があろうと、読者のみなさんに面白さが伝わるまで、連載をし続けていきます」
という編集長の力強いメッセージが掲載されるほどに、りぼん編集部も激推しの本作ですが、本作は確かに出来の良い少女マンガというだけでなく、読者に大きな影響を与えうる、いわば水面に全力で投じられた巨岩のような作品です。
この作品を読んで育った女性読者がどういう影響を受けて大人になるのか、興味津々ですね!
『たまのごほうび』
?#別マ 9月号発売前カウントダウン?
2日目の今日は#星谷かおり 先生の新連載#たまのごほうび ?
妄想爆発?新連載?
かの子には、人並み以上に「ある」憧れがあって…?
ドキドキの新連載、ぜひお楽しみに?https://t.co/nvhoVzJcJ0 pic.twitter.com/0BUtree6os— 別冊マーガレット公式@電子版好評発売中! (@betsuma_info) 2018年8月6日
集英社の少女マンガからもう一作。こちらの掲載誌は別冊マーガレットです。小中学校と女子校通いだったヒロインが共学の高校に入学し、ちょっと変な男の子と出会って好意を持つお話です。
本作の骨子は王道的な少女マンガに寄っていますが、特徴的なポイントとして、女子校に通っていたヒロインが「男子の体」に年齢相応の関心を持っており、要するに、それなりにえっちだということです。そのため、少女マンガにはよくある典型的なシーンでも、本作ではそこにヒロインの「男子の体への想い」が加わり、新しい読み味となっています。
昨今、女子側の性欲をクローズアップした作品が増えてきている気がします。以前ではそれを描くのは一部のジャンルに限られていた印象ですが、その枠が広がってきた感があるのです。女子に性欲があるのはむろん当たり前であって、それを描いた方がやっぱり当然リアルなはずです。
様々な作品がそこにフォーカスし始めたのは、作り手・受け取り手側のジェンダーに関する認識の成熟を示しているのではないでしょうか。『さよならミニスカート』もそうですが、ジェンダーに関しては、いまマンガ界は相当にホットだと感じています。
『潮騒の凡』
「潮騒の凡」1〜6話まで公開されております。
これ、月刊でいえば2話分。無料です。
よければ読んでくださいませませ!潮騒の凡 https://t.co/GxcvW9Gz6x #マンガボックス
— ウヒョ助/塚脇永久 (@uhyoneko) 2018年9月6日
まさにチャンピオン! といった感じの強烈な作品! 不良が出てきて人を殴るぜ!!
お祭りの最中に、内閣総理大臣候補の元ヤンキーの大臣を、現地では有名なヤンキー主人公が殺す気で殴るというすごい作品ですが、日本の政治の中枢に当然のようにヤンキーが絡んでるというのもすごいし、アメリカ合衆国大統領も元ヤンだし、政治中枢に居座るヤンキーを殴るのもヤンキーという、「地球はどれだけヤンキー原理に支配されてるんだ……」という、なんともチャンピオンめいた作品です。
とにかく、凄まじい勢いを感じさせる本作ですが、しかし、この「勢い」というやつ。「このマンガは勢いがある」とかよく言いますが、実際、「勢い」というのはマンガ連載をしていると本当に重要で、描いてる側も勢いの「ある・なし」は確かに実感できてしまうんです。
しかし、「勢い」が本当に重要なファクターだとしても、その実態がよく分からない。果たして、「勢い」は何から生み出されているのか。ストーリーなのか、設定なのか、セリフなのか、演出なのか、絵柄なのか、それとも作者のやぶれかぶれ精神なのか。「勢い」の正体はさっぱり分からないのです。
だが、ともかくこの作品には勢いがある。分からないけれど、この作品を読めば、勢いがなんなのか掴めるのかもしれない。掴めないかもしれない。とにかくそういう勢いの作品なのです。
『いじめるヤバイ奴』
【連載始まりました】
少年マガジンアプリのマガポケにて今日から「いじめるヤバイ奴」連載始まりました!
ハラハラドキドキホラーサスペンス的な作品です。是非ともご一読ください!https://t.co/EGhgb7aB3X pic.twitter.com/G4idRBQNZp— 中村なん@マガポケいじめるヤバイ奴連載中 (@cololomanga) 2018年8月24日
個人的な今月イチオシ作品! 女の子がクラスメイトからめちゃくちゃイジメられます!
……というと、全く読みたい気持ちにならないと思うので諦めてネタバレをしますが(頼むから未読の方はここでリンク先に飛んで一話を読んでくれ~~!)、実は裏ではこの女の子がいじめっこを脅迫しており、無理強いをして自分をいじめさせているのです。なので、いじめっこである主人公は、凶悪ないじめを必死にがんばって実行しており、まるで『金田一少年の事件簿外伝 犯人たちの事件簿』のような読み味なのです。
というわけで、シンプルにギャグ作品としても面白い本作ですが、いや、しかし、この点には言及せざるを得ないでしょう。この作品が真に良くできているのは、様々な「言い訳」を用意しつつ、読者の秘められし欲求を掬い上げているところなのです。いいか、男子ども! ハッキリ言うから、お前らも諦めて認めろよ。
女の子にめちゃくちゃな性的イジメをしたいだろ?
あ!? 何だと、決めつけるなだと!? うるせえ、正義漢ぶってんじゃねえ。認めろ! 女子をめちゃくちゃにしてぐちょぐちょにしてえんだろうが、ボケ!
いいか、作者の中村なん様はな。俺たちの弱い心を分かっていらっしゃるのだ。そんな気持ちを奥底に秘めながらも、決して表には出せない俺たちの弱さを、な……。『さよならミニスカート』や『たまのごほうび』を取り上げて、ジェンダー的にも中立であろうとする俺のような心の弱さを、よォ……。
本作はギャグマンガという体裁を取り、また、女子の側を心情的有利に置くことで、俺たちのような弱き心のものどもが、アハハと笑いながらも昏い欲望を満たせるようにしっかりと配慮して下さってるんだよ! だから、お前も認めろ。己の中の昏い欲望を。それがリアルってことなんだ。
なに? やっぱり勝手に決めつけるな、だと!? 「むしろ俺は女子にぐちょぐちょにされてえんだ」だと!? なるほど、安心しろ! 中村なん様の慈愛はお前のようなブタ野郎にも及んでおる。はっきり言って主人公の男の子はめちゃくちゃ可哀想であり、命の危険をリアルに感じており、お前のようなブタ野郎が興奮するのには十分に悲惨な境遇である。つまり本作はいかなる変態にも対応しており、後はお前が認めるだけなのだ。
そう、本作を読んで勃起している貴様自身のことを、な……!
以上、100作品以上の中からピックアップした5作を紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。
©海月れおな/講談社, ©牧野あおい/集英社, ©星谷かおり/集英社, ©ナンジョウヨシミ、塚脇永久/秋田書店, ©中村なん/講談社