2019.03.31
【まとめ】もはや発情!? 大好物にハァハァしちゃう!ヤバい偏愛ヒロインが登場するおすすめ漫画!
フィクション作品でキャラクターを立てるには、そこになんらかの個性を描くことが必要となる。
個性とはすなわち、その人物ならではの思考や行動の偏り。極端さのことである。
極端な正義感、極端な優しさ、極端な憎しみ……。あるいは、何もかもが平凡で普通すぎるというのも逆に一種の極端さだろう。
そうした偏りを表現するうえで具体的な手段となるのが、キャラクターの趣味嗜好の設定だ。
好き嫌いや良し悪しを当人の価値観でふりわける言動が過激になればなるほど、その人物の性格はありありと浮かび上がり、それをとっかかりにして私たち受け手は作品全体の世界観にも惹き込まれていく。
そこで今回は“趣味の極端さによるキャラクターの立て方”が面白いマンガに注目。
なかでも特に強烈で分かりやすい例として、自分が好きなものに対してもはや発情したかと思わせるほどの大興奮を抱くヒロインが出てくる作品で打線を組んでみた。
さあ、Let’sハァハァ!
『ねこぐるい美奈子さん』
集英社「となりのヤングジャンプ」で連載された本作は、作者が自サイト(現在はPixiv)で公開していた同題Webマンガの続きにあたる。
内容をまとめれば「猫好き女子が猫カフェで働きながら猫ちゃんたちの可愛さにキュンキュンする」というシンプルかつ微笑ましい日常コメディなのだが、その「猫好き」「キュンキュンする」の表現がなんともすさまじい。
猫を抱きしめ、においをかいでもまだ辛抱たまらず、ベロンベロンと舌で舐めまくりながら白目を剥いて顔面崩壊。
弛緩しきった口から大量のヨダレを垂れ流してビクンビクンと全身を痙攣させては「うほぉおおおお」「ドグロバッ」「あ゛~~~~」と奇声をあげるヒロインの姿たるや、もはや狂乱痴態の域である。
マンガのキャラクターというものが、好きで好きでたまらない対象を前にしてどこまでヤバいリアクションをとれるのか。
その極限ともいえる表現の数々をぜひ見届けてほしい。
『賭ケグルイ』
「月刊ガンガンJOKER」の看板タイトルにして、実写化のほかアニメ版も制作されている人気作。
博打(ばくち)によって生徒の階級や力関係が決まる特殊な制度を敷いたエリート学園を舞台に、校内を牛耳る生徒会の強敵ギャンブラーたちへ勝負をしかける謎多き転校生・蛇喰夢子(じゃばみゆめこ)の活躍を描く。
千万あるいは億単位の大金が動く勝負に身を投じ、負ければ金だけでなく人間の尊厳すらも奪われるリスクをむしろ愉悦として喜びむさぼる夢子は、まさに“賭ケグルイ”の呼び名にふさわしいギャンブル中毒者。
破滅のぎりぎり一歩手前まで迫るスリルに興奮した少女が、顔を上気させて汗ばんだ身体を震わせる姿はひじょうに官能的で、ほとんど成人向けマンガの絶頂シーンに等しい艶めかしさを帯びている。
『汚物は消毒です』
両親の再婚で姉弟になった女子高生・ましろと男子高校生・司が、ひとつ屋根の下でドタバタするファミリーラブコメディ。
しかし、本作最大の特徴は姉が常軌を逸したお掃除マニアという設定にある。
いろいろと実際に役立つお掃除テクニックを紹介する豆知識マンガではあるものの、掃除に夢中になった時のましろ姉の言動が異様な熱を帯びており、とにかくそちらの印象が強く焼きついてくる。
ふだんは理知的でクールなましろ姉が、トイレの便器についた汚れやカーペットのしみをハァハァ息を荒げながら処理するギャップはとてもフェティッシュで、多感なお年頃の弟ならずともドキドキしてしまう図になっている。
『眼鏡橋華子の見立て』
銀座に店をかまえる眼鏡屋の主・華子さんが、うまくフィットしない眼鏡をかけて難儀している人間を見つけては本当に必要な眼鏡の種類を判定しておすすめし、目も心も救っていくハートフル眼鏡ストーリー。
お客一人一人の年齢、性別、体質、生活環境そのほかさまざまな条件をきめこまかく見極め、人間と眼鏡が最高に“合う”関係を作り出そうとする華子さんの旺盛な行動力は、もはや単なる仕事のレベルを超えた情熱に満ちている。
眼鏡が本当に好きで好きで、お客さんが極上の一本に出会った瞬間を思うだけでウットリと頬を染めて「欲情してしまいます」とまで言いきる華子さん、マニアックだが不思議と可愛らしくもある。
眼鏡か人間かの二択ではなくあわせて一つという考え方を示す本作は、マニアによる“物”への偏愛を題材としながらも、肉感的な温かみを両立させているところが好ましい。
『だがしかし』
駄菓子屋の父から跡取りと見込まれながらも本人はマンガ家を目指す少年・鹿田ココノツと、彼を駄菓子屋の道に進ませるためあの手この手をしかけてくる大手お菓子メーカーの社長令嬢・枝垂ほたるを中心とした、異色の“駄菓子コメディー”マンガ。
見どころは「うまい棒」や「ヤングドーナツ」など実在のお菓子がそのまま登場するところだが、それと同じくらい、ほたるさんの度を越した駄菓子マニアぶりなくしてこの作品は成り立たないと言っても過言ではないだろう。
「ポテトフライ」のパッケージキャラクター「ポッチくん」が初恋の相手だと言い張り、「味カレー」の空き袋に顔を突っ込んでスパイシーな匂いにトリップし、「ビンラムネ」の粉をすすってトリップし、駄菓子について雑談しているだけでテンションが上がってトリップし……キマってばっかだなこの人!
特殊属性ヒロイン一点推しマンガの成功例として、連載誌「週刊少年サンデー」のラインナップのみならず他誌の動向にも影響をおよぼしたと思われる本作は、今年ついに完結。寂しいかぎりである。
『アホガール』
やることなすこと勢いまかせで考えるということをしない“アホ”100%の女子高生・花畑よしこが騒動を巻き起こし、幼なじみの男子・阿久津明をはじめ友人知人家族その他をふりまわすハイテンションギャグマンガ。アニメ版の主演声優・悠木碧の怪演も注目された。
“アホガール”よしこの好きな食べ物は、バナナである。
朝食はバナナ。お腹が空けば即バナナ。
学校でもバナナ。生活指導を受けながら躊躇なくバナナ。
地面に落ちていたものがバナナなら一切の躊躇なく食べる。
美味しいバナナを作った農家がいれば、感謝を伝えるためだけにどんな遠くにも駆けだしていく。
死ぬ前に食べたいものはもちろんバナナ。
第2話、よしこが至福の表情でバナナを食べる場面を見よ。「バナナうめぇ……」と満面の笑顔のままとめどなく涙を流してバナナをもぐもぐかじるその姿。
アホだ、間違いなくアホの子そのものだ。だが、これほど心底からバナナに愛を注いでいるのを見せられると、ちょっぴり尊い健気さを感じてしまうではないか……(そうか?)。
ともあれ、「大好物は●●」という設定をキャラ立てのため徹底的に、かつ上手く活用している例として、おさえておきたいマンガである。
おわりに
はじめにも述べたが、極端な趣味の設定によるキャラ立ては、そのキャラクターの視点による世界の見方や考え方、感じ方に私たちをぐいっと引きずり込み、作品の内側へ導く入り口になるものだ。
ギャンブルのスリルを追求して絶頂するヒロインを見る時、私たちはその姿から逆算して、彼女を身悶えさせたギャンブルの世界を理解する手がかりを得る。数億円を賭けるなんて状況は体験したことがなくても、「ヒヤヒヤする」「気持ちいい」という感覚のほうは想像できるのだから、そこからたどればいいのだ。
そういう入り口の原理をふまえておけば、恍惚ヒロインにかぎらず色々なキャラクターによって作品が「分かる」確率を上げることができるだろう。
©青稀シン/集英社, ©河本ほむら、尚村透/スクウェア・エニックス, ©田口ケンジ/小学館, ©松本救助/講談社, ©コトヤマ/小学館, ©ヒロユキ/講談社