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2018.09.14

【日替わりレビュー:金曜日】『夜と海』郷本

『夜と海』

見た目は良いけど無口でどこか近づきがたい子、思ったことをすぐに口に出してしまいどこか浮いている子。そんなとっつきにくい子同士の組み合わせを描くのが、本作『夜と海』です。芳文社コミックスですが、その雰囲気はやんわり百合っぽく、いわゆる萌え的な路線とは一線を画しています。それはなんとなく表紙からも感じ取れるのではないでしょうか。

物語の主人公は2人。1人は表紙の向かって左側に描かれている少女・夜野月子。帰国子女の転校生で美人というその”いかにも”な設定から、転入早々に高嶺の花の座に収まることになります。

人付き合いが苦手で、自分から言葉を発することは滅多に無く、近寄ってきた男子も完全シャットアウトと、なかなか近寄りがたい空気を醸し出している彼女。同時に女子からも疎ましく思われることもあり、グループにはなんとなく属しているものの、孤立している感が少しながらある孤高の存在です。

そんな彼女が珍しく興味を持ったのが、水泳部に所属する。プールで泳ぐ姿に魅せられた月子は、雨の日に傘を貸し出した際に、部活の見学を申し出、以来彼女となんとなく一緒に過ごすように。

とにかく泳ぐことが大好きな彩は、明るくて人懐っこい性格であるものの、裏表が無くズバッと思ったことを口に出してしまう短絡さゆえに、友達から敬遠されてしまうこともしばしば。そんな中、口数は少ないながらも近づいてきてくれた月子と仲が良くなったのは、ごくごく自然な流れでした。

「仲が良い」と一口に言っても、常にベッタリ一緒に行動しているというわけではありません。なんなら互いに連絡先すらも知らないような関係で、いわゆる女子高生の仲良しというフレーズから想像されるようなウェットな関係とはちょっと異なる、ややドライで、けれども他に代えがたい関係というものが描かれています。

互いにちょっとだけクラスから浮いていて、そんな2人がそれぞれの隣に、居心地の良い場所を見つけるというのは、なんだかとても素敵で羨ましいものですが、そのオンリーワンで特別な雰囲気というのが、作中でも存分に描かれていて、本当に読み心地が良いんですよ。

その居心地の良さの源泉になっているのは、互いに自分の欠点を自覚していて、それぞれがその欠点を受容してくれているからなんじゃないかな、と。だからこそ自分らしさを出すことができるし、リラックスして相手に対峙できる。けれどもそれは、相手を特別であると認識していないからこそ。一緒にいる時間が積み重なり、相手のことを知れば知るほど、これまで他の人に対して感じたことのない感情が首をもたげるようになっていきます。そしてなんだか、今までのように接することが出来なくなってしまうという。

人付き合いが苦手な子って、そういう感情に対処する方法がわからないので、思わぬ行動を取ってしまったりするのですが、回りくどい月子に対して、とことんストレートな彩という対比が実に面白く、静かな雰囲気の中に不意に訪れる動きあるシーンが、とても印象的でした。

終わりなき日常が続くような物語ではなく、そこには確実に関係性の変化が見られ、どこかへと向かっていくことがハッキリと窺えます。向かう先が「恋」なのか「友情」なのか、今の段階ではわかりませんが、どういう着地点になったとしても納得できそうな、儚くも絶対的な何かがそこにはあります。

月日も一話ごとに着実に流れており、良い意味で長引かせずに物語の結末を見ることになりそう。百合的なお話がお好きな方や、表紙の雰囲気に惹かれたという方、これ、うってつけだと思いますので是非是非どうぞ。

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この記事を書いた人

いづき

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