2018.09.16
【日替わりレビュー:日曜日】『水曜日のシネマ』野原多央
『水曜日のシネマ』
映画、最近観てますか?
私個人的にはマンガ以外にも映画を見るのが好きで、よく映画館にも足を運んでいるのですが、近頃なかなか観られてないっていう人も少なくないはず。
そんな方にぜひオススメなのが、本作『水曜日のシネマ』です。
初めての一人暮らし、初めてのアルバイト、初めての恋愛──。映画をあまり知らないままレンタルビデオ店でのバイトを始めた大学1年生の藤田奈緒(18歳)は、店長の奥田一平(42歳)から毎週水曜日におすすめの作品を教えてもらうことになった。一緒に観ていくうちに、徐々に縮まる心の距離。彼が教えてくれたのは映画鑑賞のおもしろさと初めての恋。(公式あらすじより)
主人公の奈緒は、初めてのアルバイトでレンタルビデオで働きはじめましたが、全然映画を観たことがありませんでした。タイトルを忘れたお客さんから質問されても答えることが出来ませんし、映画好きが集まった職場のメンバーの中で疎外感を感じてしまいます。
そんな中、映画の良さを子供のような笑顔で語る店長の姿に触発されて、自分も映画を知るキッカケが欲しくて店長に好きな映画を尋ねます。そこで出てきたのは、「ニュー・シネマ・パラダイス」。店長は大画面で観て欲しいと伝えますが、彼女は実は13インチのノートパソコンしか持っていない。そこでお店の中の事務所スペースのテレビで観ていくことを奈緒に勧めます。
この事務所での映画を鑑賞するシーンが、めちゃくちゃステキなんです。
最初は観たことあるからと背を向けて事務作業をしていた店長ですが、やっぱり好きな作品だからか途中から奈緒の隣にイスを持ってきて一緒に観始めます。その瞬間、ただの事務所の空間がまるで映画館で観ているかのようになるという演出!
もちろんイメージカットですが、体験としての映画の力を雄弁に語っていますし、その後に続く2人の作品を語り合うシーンも良い映画を観た後の感動を見事に切り取っていて素晴らしい。
そして、実は店長は毎週水曜日にこの事務所での映画鑑賞を1人でやっているらしく、映画を観た感動にほだされたのか、奈緒も水曜日の映画鑑賞に参加したいと申し出ます。
これを機に徐々に2人の距離が近づいていって…という、映画を軸にした年の差ラブストーリーが展開されていきます。
「バックトゥザフューチャー」を観た後の帰りに店長に乗せてもらった車の中では、デロリアンと重ねタイムスリップして店長の若い頃を知れたら良いのになと思ったり、タイプの違う友人との関係を、「E.T.」での友情に重ね合わせたり。
奈緒の初恋における様々な感情や行動に、映画が寄り添ったり背中を押していく様子が、とても鮮やかに描かれていきます。
各話でピックアップされる映画が、一番最初に「ニュー・シネマ・パラダイス」、その後も「バックトゥザフューチャー」や「フォレストガンプ」に「E.T.」と、いわゆる名作中の名作が登場していくので、もしかしたらコアな映画ファンには映画要素について、ちょっと物足りなさを感じるかもしれません。
でも、「バックトゥザフューチャー」を観ていなかった奈緒に対して店長が語ったとおり、これらの名作たちのワクワクを真っ白な状態で観れるってちょっと羨ましく思いませんか?
映画を見始めるのって何がキッカケでも良いと思うし、まさにこのマンガも最近映画を観てないなっていうような方のキッカケになってくれるような作品じゃないかなって思います。(あと実際、映画を全然観てない!っていう人にオススメするべき作品ってほんとに難しいですよね…。)
本筋の恋愛模様に関しては、年の差故の悩みや初恋だからこその葛藤など、いじらしい2人の関係はまあなかなか進まないのでしょ? なんて思ってたら、1巻で早くも告白までいってしまうというスピード感!
ここからどう転んでいくのか気になるところですが、本作は「コミックDAYS」でも連載されていますので、単行本が待てない人は続きをぜひチェックしてみてくださいね。
©野原多央/講談社