2018.09.28
【日替わりレビュー:金曜日】『青の花 器の森』小玉ユキ
『青の花 器の森』
『坂道のアポロン』『月影ベイベ』の小玉ユキ先生の新連載『青の花 器の森』の1巻が先日発売されました。
今度のお話は、陶磁器をめぐる恋物語です。
舞台となるのは、長崎県は波佐見。波佐見焼という有名な陶磁器の窯元で働く女性・青子が、物語の主人公。様々ある陶芸の工程の中でも、絵付けが大好き・大得意な青子でしたが、ある日北欧で作陶活動をしていたという龍生と出会い、絵付けを「興味ない」と否定されてしまいます。
自分の人生をも否定されたような気持ちになり落ち込む青子でしたが、そんな思いとは裏腹に、龍生の作った白い器には、どうしようもないほど惹かれてしまい……というストーリー。
『坂道のアポロン』も『月影ベイベ』も男の子が主人公だったので、女性が主人公というのが物珍しく感じられるのは私だけでしょうか。今回の主人公はアラサー女子で、陶芸の仕事を愛しているという、恋愛は二の次なキャラクター。これまでなんの疑問を抱くこともなく地元の窯元で仕事をして、そこで生きがいを見出して充実しているという、狭い世界ながら、これと言った不満のない日々。
そんな平穏な日々が、波佐見焼を学びに来たという青年・龍生との出会いから、大きくかき乱されることになります。
この龍生という青年、北欧で作陶活動をして生計を立てていたということもあり、年下ながら技術力は抜群。外見も整っており、なかなか女子人気が出そうな人ではあるのですが、いかんせんコミュニケーション能力が圧倒的に低く、早々に周りとギクシャクしはじめます。とにかく自ら壁を作りまくって、誰ともうまくコミュニケーションが出来ない。それでいて陶芸には独自のポリシーを持っているから、不必要にぶつかってしまうという、傍から見るとクラッシャータイプの扱いづらい青年です。
序盤はそんな青子と龍生との対立が描かれるのですが、2人とも陶芸に対する考え方や向き合い方は違えど、志している道は同じ。職人として通づるものがあるのでしょう。ちょっとした対決や共同作業を通して、少しずつ相手を認められるようになっていきます。
そこに流れるのは恋愛というよりも、プロの働き手としての共感やリスペクトみたいなものであり、愛だの恋だのしだすのはもうちょっと先なんじゃないかな、と。なので正直1巻時点でドキドキときめく要素はそんなに無いんですが、同時に着々と土台を固めているという確かな手応えが感じられて、ページを捲るごとに期待感は高まっていきます。
また龍生がここに流れ着いた背景にも色々とありそうな空気を匂わせており、このあたりも物語に深みをもたらしてくれそうです。ちなみに波佐見焼というのは実在する陶磁器であり、長崎県は『坂道のアポロン』と同じく小玉ユキ先生の故郷。地元ならではの細かな描写や情景が存分に落とし込まれてきそうでそのあたりも楽しみですね。要注目の一作です。
©小玉ユキ/小学館