2018.10.18
【日替わりレビュー:木曜日】『僕だけに優しい物語』田所コウ
『僕だけに優しい物語』
ツッコミ不在の“非日常”な日常
日々の暮らしに飽き飽きとしていて、ちょっとしたスリルを求める全女性に読んでほしいマンガ『彼女のやりかた』を描いた、田所コウ先生。みんなの見えないところで、ほんの少しだけエッチな冒険をしている彼女たちの姿は、毎日仕事ばかりで退屈だった私にとってキラキラと輝いて映った。
そんな田所先生の最新作である『僕だけに優しい物語』は、それまでの短編や掌編を一冊にまとめた作品集だ。
読んでいてつくづく、田所先生は日常を面白くする天才なんだな、と思った。そこに描かれる物語は、どれもちょっとだけおかしい。ロボットや博士、宇宙人などが出てくるSFちっくなものもあれば、何気ない夜の時間にちょっとした怪奇現象が混ぜ込まれたものもある。しかし、そのどれもが、この私たちが生きる日常の延長線上にいるような親近感をもっているのだ。
おそらくそれは、ツッコミどころだらけの物語がただ淡々と進んでいく、その説得力もあるのだろう。一歩その世界に踏み入れたが最後、まるで白昼夢の中にいるような、不思議で心地よい感覚が広がる。
表題作である「僕だけに優しい物語」は、宇宙人と共存するようになった地球の話だ。今まではモテることのなかったブサイクなコンビニ店員が、価値観の違う宇宙人にとってはイケメンのように感じられることがわかる。そんな彼は、想いを寄せる同じコンビニで働く宇宙人の女の子(とっても可愛い)をデートに誘う。夢みたいな時間を過ごす中、しかし突然彼女は顔を赤らめながら彼を殴打する。わけがわからないまま進んで行くストーリー。
彼にばかり都合のいい優しい世界(でも、現実って不条理なものだと考えたら、これはこれでありうる世界なのかもしれない)は、最後の最後まで読者の顔を緩ませる。
ちなみに作品集に収録されている「真夏の夜のレンタルビデオ」はウェブでも公開されている。この一話に胸をグッとつかまれたなら、「買い」で正解だ。
©田所コウ/リイド社