2018.10.25
【日替わりレビュー:木曜日】『かしましめし』おかざき真里
『かしましめし』
先日、あまりにも辛いことがあって、一人じゃ抱えきれず、仲のいい友達のLINEグループに連絡をした。あんまり深刻そうにならないように、言葉を選んで送ったけれど、すぐに見破られて、「ていうか、大丈夫じゃないよね?」と言われる。「今日、空いてるからご飯食べに行かない?」ときて、そこで泣きそうになった。
深夜、渋谷の道玄坂にあるサイゼリヤで、いい歳した女3人が、好き放題に食べて飲んで喋り散らかす。関係のない話に花を咲かす。帰り道、問題はまるで解決していなかったけど、心は晴れやかだった。私はただ、笑いたかったのだ。
やさしい人とご飯を食べる
そういうタイミングで、ちょうどおかざき真里先生の描く『かしましめし』を読んだから、なんだか他人事とは思えない親密さを感じてしまった。
28歳で、独身、職なしの千春は、学生時代に付き合っていた元彼が自死をしたことで葬式に出向く。その葬式にはかつての学友たちが多く参列しており、そこでバリキャリだが男でつまづくナカムラや恋人との関係がうまくいかないゲイの英治と再会。意気投合をし、3人で食事をすることが習慣になっていく。
それぞれに、一人では耐えきれない悩みや苦しみを抱えている。あまりにも辛くなると、彼ら彼女らは、連絡を取り合い、一緒に集ってご飯を食べる。弱音をこぼすこともあれば、全く関係のないことで笑い合う。美味しいご飯に舌鼓をうち、興奮する。
最初は千春の家に集ってご飯を食べていたが、次第に関係性の深まった3人は一緒に千春の家に同居することにする。シェアハウス生活が始まるのだ。先日発売された第二巻では、そんな三人の新たな生活と、人間関係の変化が描かれている。
作中には美味しそうな料理や、そのレシピも描かれている。正直、私はあまりレシピがマンガに描いてある作品は得意ではなかったのだが(マンガよりもレシピ本のように思えてしまうので)、この作品に限っていうなら、全くそんなことはない。まず、どれも簡単で、一コマでおさまるシンプルなものだ(私も明日作ってみるか、と写メったものがいくつもある)。そして、本筋のストーリーや、セリフ回しやモノローグ、すべてが濃密で、マンガとしての読み応えが十分ある。
「28歳ともなれば 知っている 私たちが欲しいのは〝問題の解決〟とかじゃない」
「起きてから寝るまで 自分にやさしい人とごはんを食べる」
「オイシイ タノシイ オモシロイのが大事でな 〝生き方〟とかって統括はせんでええねんで」
「晴れの日もあれば 雨の日もある それでようやく芽は伸びる ひとつの気分だけじゃ死んでしまうよ」
……読んでいると、心に刻みたい言葉が山ほど出てきて、書ききれない。この時間がずっと続けばいいのに、と思うと同時に、しかし彼らの人生は日々変化にさらされている。どんなに楽しい同居生活も、これが〝つかの間〟であることを千春は悟っている。
美味しいご飯を食べる瞬間があっとういう間ではかないように、この時間もまた儚いものだ。終わりを予兆させる描写があるからこそ、いまここに描かれている3人の時間がより眩しく映る。
できれば、みんな幸せに、これからも美味しいご飯を食べる相手に恵まれていてほしい。くだらない話に花を咲かせていてほしい。そう願いながら、私は私で、一緒にご飯を食べる目の前の相手を愛おしく思う。誰かと一緒に食事をする喜びがふんだんに描かれた作品だ。
©おかざき真里/祥伝社