2018.10.31
【日替わりレビュー:水曜日】『ココを異世界とする!』やとみ,稲木智宏
『ココを異世界とする!』
異世界は案外近くにあるのかもしれない
マンガ・ラノベ界隈の「異世界」もののブームは、長い間収束することなく、様々な角度で広がり続けている。移動したり転生したり、色々な趣向を凝らしながら、多くの作品が世に出続けている。
こうなると、異世界に行くこと自体に憧れるのも必然。退屈な日々から脱出して、心がワクワクするような冒険をしてみたい、という気持ちは自然と湧き上がる。けれどもそれは当然「無理」だとわかっている上での、妄想遊戯だ。
この作品のヒロイン・城ヶ崎言ノ葉(じょうがさき・ことのは)は、異世界に憧れる人間の1人。そして異世界に行くことを諦めていない、超ポジティブな少女。勇者になるつもり満々で、異世界生活がいつでもできるよう、キャンプでマンガ肉を焼きながら訓練を積んでいる。極端なまでに本気だ。
彼女に出会ったのは、自分は特別なにもできないからと感情をおさえて暮らしている、厭世的な高校一年生の八坂雄大(やつさか・ゆうだい)。変なやつだと感じつつも、言ノ葉の前向きな行動にほんのすこしだけ心が揺れる。
「大丈夫!きっとユーダイにも見つかるよ…リスクを考えるよりも先に 体が動いちゃう様な楽しいことにさ!」
当然異世界に行けるわけはない。そこで雄大が苦しまぎれにいった「現実世界を異世界に作りかえちゃう」という発言が採用され、「異世界創世部」が発足する。異世界に行くわけではなく、現実のあらゆるものを、想像力で補って異世界とイメージし、こっちの世界で冒険するのが活動目的だ。
言ノ葉の発言はあまりにも浮き世離れしていて、幼稚に見える部分もある。だが彼女の異世界についての情熱は生半可なものではない。何より自分の大好きを絶対に曲げない。だから、イタさが一周して、ものすごくかっこいい。「好き」を高らかに掲げて目を輝かせる人は、魅力的なのだ。
この作品が描くのは、異世界の様子ではない。現実世界の少年少女の、「好きなもの」に向き合った時の、痛みと喜びだ。思春期は特に、自分の好きなものが膨れ上がると同時に、周りが見えて自信を喪失しがちな時期。異世界ものへの憧れは、どうしても幼いものと見られがち。高校生ともなると「恥ずかしい」「イタい」と言われることもある。だから隠してしまう。
作品後半で異世界物小説を書いている先輩が、クラスメイトからいじめにあうシーンは読んでいて本当にしんどい。だからこそ、絶対にブレない言ノ葉の「好き」が、強烈に光り輝く。
「アタシはただ言いたかっただけ どんなにバカにされても アタシの”好き”は誰にも汚せないって」
言ノ葉はどんなにバカにされても絶対に怒らず、自分の「好き」を信じ、他人の「好き」を救う。異世界に行かなくたって、彼女はすでにキラキラと輝く魅力的な勇者だ。
©やとみ,稲木智宏/KADOKAWA