2018.11.04

【日替わりレビュー:日曜日】『異世界ちゃんこ 〜横綱目前に召喚されたんだが〜』林ふみの

『異世界ちゃんこ 〜横綱目前に召喚されたんだが〜』

異世界転移に「ちゃんこ」…!? 異世界ものって色々あるけど…流石に相撲を組み合わせるってどうなの…!? と、タイトルを見ただけでちょっとひいちゃったあなた! その判断はまだ早い。早すぎます!

なぜならこの作品の作者が、『好角家 愛敬紗英 今日の一番』も描いていた、ガチンコの「好角家」(相撲好き)である林ふみの先生だから! 確かにタイトルだけ見ると色モノ感は否めないことは確かですが、その実、「相撲」への愛で満ち溢れている秀作で、そのへんのパンピーがニワカ知識で手をだしているわけではないということは知っておいて頂きたいところ!(先生のTwitterアカウントも相撲の情報に溢れていて、その愛の片鱗も垣間見ることができます。)

大相撲初場所・千秋楽、二場所連続優勝を果たした大関・高良山はついに念願の横綱昇進が確実! となったその瞬間、突然エリーセイーリスフランカという町娘3人組によって異世界へと召喚され、いきなりモンスターと戦うハメに。なんとか勝ち星を上げた彼は、生きていくためにも倒したモンスターを捌いてちゃんこ鍋に仕立てます。高良山は現実世界とのギャップを感じながらも、元々の力強さに加え力士らしい様々な能力を使いながら、元の世界に戻る手がかりを探すため3人娘と冒険の旅に出ることになっていって…というのが本作のあらすじ。

まず、呼び出された理由も、世界を救うなどの勇者的な理由ではありません。定食屋をやっていた彼女たちでしたが、長女のエリーセが売り上げを増やそうとカジノに有り金を突っ込んだものの全部スッてしまったため怪しい人からお金を借りたらすごい利子付きで取り立てられたから夜逃げ。その逃げる最中でモンスターに襲われたのを助けてもらおうと召喚術を詠唱したら、たまたま成功してしまったから…というなんともいえない理由。

そのあげく敵を倒すだけ倒したら、さくっと帰ってもらって大丈夫と言い放たれてしまうという感じで、主人公の高良山はかなり不憫なんですよね…。しかも彼は、屈強な力持ちで力士としての誇りも高く、それでいて包容力や優しさもある真っ当な常識人でして、更には料理も出来ちゃうというハイスペック男子。この呼び出したちょっとアレな3人娘との対比も相まって、序盤から高良山の好感度はうなぎ登りです。

もちろん旅を続けるごとに彼女たちの人となりも段々分かってきてそれぞれの良さも見えてくるんですが、高良山が終始、力士さんへのイメージ通りな揺るがない好青年っぷりで、とても安心して読んでいけるというのがポイントの一つでしょう。

また本作の腰でもある、「ちゃんこ料理」。もちろんファンタジー作品なので『ダンジョン飯』よろしく、行く先々で遭遇する魔物や不思議な食材を用いて、現代的なちゃんこ鍋に仕立てていくのですが、毎度よだれが出るほどに美味しそうなんですよね。

調味料とかはどうするのっていう部分も、彼の固有アイテム(その存在にしか使えないアイテムのこと)である『「ちゃんこ横綱」とラベルが書かれている不思議な缶』が活躍してくれます。中には灰のような粉が入っており、高良山が望む調味料にその粉が姿を変えてくれる(例えば醤油や合わせ味噌なんかにも)という優れものなので、調味料問題は万事解決しちゃいます。最近めっぽう寒くなってきましたし、ここからの季節に読んじゃうと、ちゃんこ鍋が食べたくなってしまうこと受け合いです。

それから、絵柄に関しては所謂萌えっぽい感じではなくどちらかというと、少女マンガチックなテイストで読み味もライト。また、過去に『新世紀エヴァンゲリオン 鋼鉄のガールフレンド2nd』のコミカライズや、『魔法科高校の劣等生』のコミカライズの構成も担当されている経験も活きておられるのでしょう。お話のテンポ感も非常にスマートで、さくさくと読み進められるし、冒険譚としてとても良く仕上げられています。

読み進めるほどにおもしろく、そして美味しそうな作品ですので、食わず嫌いはせずぜひ一度手に取ってみてくださいね。

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コミスペ! 編集部

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