2018.11.17
【日替わりレビュー:土曜日】『妖怪の飼育員さん』藤栄道彦
『妖怪の飼育員さん』
動物園は、その名の通り動物を飼育して研究したり一般に公開する施設だ。
それではもしも、動物園と同じように妖怪を囲って養う“妖怪園”が同じように身近にありふれていたら……? 「くらげバンチ」および「Pixivコミック」に掲載中の『妖怪の飼育員』さんは、そんな想像力を豊かに働かせた舞台仕立てがおもしろいWebマンガである。
例えば、ふれあい広場で子供たちに人気ナンバーワンの「すねこすり」。岡山名物・ままかりで有名なサッパの生魚しか食べないこの妖怪は、動くものにまとわりついて移動を邪魔するためエサやりと清掃をしようとする、飼育員泣かせのわんぱくな生物として描かれる。
また、「つるべ落とし」がヒマそうにしているので園内に大きな木を植えてやり、木の上から落ちてきて人を驚かせるという本来の生態を誘導するエピソードは、動物園でいう行動展示(行動学的展示)の概念を分かりやすく示していて含蓄深い。
そしてもう一段の見どころとして挙げられるのは、そうした妖怪たちのディテールが飼育員や来援するお客たち、つまり現代人や社会のありようをチクリと刺すような話が多い点である。
第21話「豆腐小僧」などは、その線でとくに秀逸だ。
豆腐作りが生きがいの妖怪・豆腐小僧が、園内で昔ながらの美味しい豆腐を作って個数限定で販売していたらご当地グルメとして評判になる。
するとそれに目を付けたレストランチェーンからオファーがあり作り方を教えた結果人気メニューが誕生……続いて大手スーパーのプライベートブランドからも協力を頼まれて応じると、質の劣った製品のパッケージに豆腐小僧の名前を載せた看板商法に利用されてしまう。しまいには大手食品企業まで寄ってきて、豆腐小僧印の豆腐を機械で大量生産して全国展開したいと言われ……。
という具合に、いいモノを商売っ気で際限なく有名無実にさせていく人間の業がなんともろくでもない話なのだが、最後の最後に豆腐小僧が人間社会の仕組みを逆手にとっておいしいところをもっていくのが痛快なので、ぜひ実際に読んでオチを見届けていただきたい。
また、別の切り口としては、人間が使役する「管狐」を題材にペットブリーダー問題を重ねるなど、なるほどそういう描き方があったかとうなるテーマ取りが光る回や場面も多い。
公式のあらすじ紹介などでは、妖怪園に勤務する新米の女子飼育員の一人が主人公となっているが、彼女の機能は人間側から妖怪を眺めるための視点役といったほうがいいだろう。
本作で真に主役と呼ぶべきは、さまざまなアヤをもって人間たちの悲喜こもごもを照らしてくれる妖怪たちの生態それ自体なのだ。
©藤栄道彦/新潮社