2018.11.22
【日替わりレビュー:木曜日】『尾かしら付き。』佐原ミズ
『尾かしら付き。』
理解したいし、されたい
気になる男の子のお尻に尻尾が生えていた。
多くの人は、そこでどん引いちゃうかもしれないし、想いが冷めてしまうかもしれない。しかし、主人公は(最初こそ悲鳴をあげて逃げたものの)その尻尾を「可愛い」と言って、挙げ句の果てには彼のことをもっと知りたいから「付き合って」と言い始める始末。言われた方も、予想外の反応に戸惑うだろう。彼も困惑しながら、とりあえずちょっと待って、と時間をかけて考える。
佐原ミズ先生が描く『尾かしら付き。』は、そんな不思議な体をもった男の子と、そんな彼に恋した女の子の10年を綴る物語である。
作品は、最初に彼らが赤ちゃんを出産するところから始まる。つまり、付き合って結婚するということはすでに暗示された状態で物語がスタートするのだ。遡ること10年、彼らが中学生の頃に出会った。
ソフトボールクラブで他のチームメイトのように黒く焼けず、日の下で練習を重ねても白い肌のままである主人公は、下手である上に日焼けもしないとなると、自分がそこにいることがわかってもらえない、と不安がる。「私という存在をわかってほしい」というのは、いかにも思春期らしい、繊細で初々しい悩みだ。
そんな彼女が、自分のことなんかよりももっと気になる相手ができてしまった。ひょんなことからクラスメイトの宇津見君に尻尾が生えていることを知ってしまい、彼への興味がどんどんと増していくのである。今まで見つかると周りから攻撃されたり避けられたりしてきた彼にとって、「知りたい」と思ってもらえることは、喜びでもあった。
作中、彼のことをはげしく責める近所の住人に主人公が放つ一言が清々しい。
「偏見ってどうやって生まれるか考えてたんです きっと…理解することを諦めた時なんだろうなって……」
少女は、好奇心と恋心により、偏見の壁を飛び越えた。1巻は、どう考えても彼らが出産までこぎつけるとは思えないような終わり方をしていて、先が気になる。
©佐原ミズ/徳間書店