2018.12.01

【日替わりレビュー:土曜日】『しょぼしょぼマン』いちかわ暖

『しょぼしょぼマン』

本日ご紹介するのは、せわしない日常のなかで一読すればほどよく肩の力を抜いてくれるこの作品。その名もご愛敬な『しょぼしょぼマン』である。

もとは作者・いちかわ暖先生がTwitterで発表していた連作ショートマンガで、のちに改めて「ガンガンONLINE」のタイトルとなり2016年春から今年6月まで連載。単行本は完結巻の第4巻が9月に発売された。

内容は、いわゆるキャラクター同居コメディにあたる。

ある日、散歩中に謎の生き物が行き倒れているのを見つけて拾った雑貨クリエイターの青年「みのる」と、その生き物「しょぼしょぼマン」が一つ屋根の下ですごしながら繰り広げる生活風景が中心となっている。

しょぼしょぼマン。

それは、である。手足が生えて動く豆である。

「メンタルは豆腐! やる事なす事 味噌つける! 戦う大豆しょぼしょぼマン」

威勢よくしょぼい自己紹介をした本人いわく、落ちこぼれの大豆だという。豆型のかぶりものめいた頭部に、まんまるい幼児のような顔。幼児のような身体つき。幼児のような舌足らずな口調に、幼児レベルの知能と運動能力。武器は幼児でもふりまわせるもやし一本。

うん。ほぼ幼児です。

そんなしょぼしょぼマンが、がんばって同居人のみのる君を守ろうと奮闘するのだ。

風邪で熱を出したみのる君を冷やすためオデコに冷ややっこを乗せてしまったり、みのる君が外出中に雨がふれば傘だと勘違いした食卓カバーをかぶってお出迎えに行ってぐっしょり濡れてしまったり、玄関口で台風に吹かれてピンチになったみのる君を助けようと飛び出すもパンツが引っかかってコケてしまったり……。

何もかもがしょぼい……んだけれども、あまりのあどけなさにキューンとしてしまい、みのる君のみならず読者の心も潤してくれるのだ。専用のベッドを作ってもらって大喜びしながら、でもみのる君と一緒のお布団で寝られない……とシクシク泣き出す姿などもはや健気さという概念の化身といった風情である。

そんなしょぼしょぼマンを見ていると、ふと物思わされる。いったい、“ヒーロー”とは何だろうか?

古今東西さまざまな物語が英雄的行為というものをさまざまに定義づけてきた。自己犠牲を厭わないこと。大業をなしとげること。敵に打ち勝つこと。責任をはたすこと、等々……。ひとつきりの正答はない。これからも永遠の課題として論じられ続けていくだろう。

そのなかでしばしば、ひとつの極点として「すべての人がその人なりのヒーローになれる」という境地が描かれることがある。たとえば寒さと悲しみにふるえる子供を見てあたたかい毛布といたわりの言葉をかけてやれる一般市民がいたなら、そこにヒーローが誕生している。そんな価値観だ。その考え方のもとでは、特殊な超人ヒーローは、その姿をみせて人々を奮い立たせるために存在する。

あのヒーローはあんなふうに頑張っている。では、自分が頑張れることは何か……と感化する影響源となるのがヒーローの本質、ということだ。超人ヒーローが能力を一時的に失う展開がポピュラーなのは、空を飛ぶとか怪力だとかは実は核心ではないという確認のプロセスになるからだ。

そこで、しょぼしょぼマンである。みのる君は、自分を守ると言い張る赤ちゃん大豆の極端な弱さ・極端な可愛らしさを見て思わず「むしろ僕が守らねば」と決意を促される。

そこにこそ、落ちこぼれヒーローの逆説的な強みがある。つまりしょぼしょぼマンは、“人をヒーローにする”ことに長けたヒーローなのだ。

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miyamo

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