2018.03.04

【まとめ】愛なのか、性欲なのか。思春期の性のゆらぎを描く珠玉の作品

好きな人に触れたい、キスをしたい、セックスをしたい……。大人になれば当然となる営みも、子どもの頃はいくらか戸惑いがありませんでしたか? 

実際、私は学生時代に付き合った恋人がすぐにキスをしたりそれ以上の行為に及ぼうとするたびに「彼は私のことを本当に好きじゃないんだ」と悲しくなることもありました。心も体も大きく変わる思春期。小さなことで葛藤したり、ちょっとしたことで傷ついたり、ナイーブな時期なんですよね。

……でも、そんな苦しかった日々も、過去のことだと思うとちょっと愛おしくなったり。

今回はそんな思春期の性のゆらぎや、それに戸惑う登場人物たちの姿がきらめく名作を選んでみました。大人になってから読む思春期マンガって、実はけっこう良いものなんです。

『放浪息子』

放浪息子

LGBTを描く作品として言わずと知れた名作、『放浪息子』(志村貴子/KADOKAWA)。

女の子になりたい男の子の二鳥修一は男の子になりたい女の子の高槻よしのに出会います。二鳥修一は、女の子の格好をするのが好きで、女の子になりたい。だからといって男の子を好きになるかというと、そこは意外と女の子ばかり好きになる。高槻よしのも、男の子の格好をするのは好きだけど、男の子になりたいのかと言われるとわからない。年上の男性にときめいたりして、自分の中の女の子を感じる瞬間もある。

この作品の最大の魅力は、ゆらぎをゆらぎのまま描き切った、という点です。心が女の子だからといって必ずしも男の子を好きになるわけじゃない。男の子の格好をするのは好きだけど、それはある意味いっときの欲求でしかなかった。その時の環境やタイミングで、人はいくらでも性愛の傾向を変えるかもしれないし、変わらないかもしれない。この作品を読んでいると、性愛に正解なんてものはないと感じることができるんですよね。

そういえば6年間通っていた女子校に格好良い女の子がいたな、と思い出します。ショートカットで背が高くて運動ができて。「あれ、私は女の子が好きなのかな?」と思う瞬間もあったけど、結局その後大学に入って好きになる相手は男性ばかりだった。まあ、そんなもんなのかも。

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『ジオラマボーイ・パノラマガール』

ジオラマボーイ・パノラマガール

“ボーイミーツガール”といえば岡崎京子。というか、岡崎京子作品が好きというだけで、ちょっとオシャレな感じがするのは何なんでしょうね。

『ジオラマボーイ・パノラマガール』(岡崎京子/マガジンハウス)は、普通の女子高生ハルコが同い年で高校を中退したばかりの少年ケンイチに出会い、一目惚れすることから始まります。
高校生同士のボーイミーツガールなんて、爽やかできゅんとする物語をイメージしてしまいますが、この作品はちょっと違う。いわゆるキラキラした青春ではなくて、ちょっとリアルな性愛事情。特にケンイチの自分の欲求に従順な感じは、見ていて清々しいほど。彼はイケイケのギャルが好きなんですよ。一目惚れした子のお尻を追いかけて、モサっとしたハルコには目もくれないわけです。

周囲のフォローや主人公の熱烈なアタックもあり、二人の関係性は少しずつ進展するのですが、決してストレートにうまくはいかない。やっと恋が実ったと思ったらハルコの方がセックス中に興ざめして「別れよう」と思ったり、翌朝一緒に朝ごはんを食べながらケンイチが無性にハルコにムカついてしまって酷いことを言ったり。

ご飯食べてる恋人の姿が異様にムカつく瞬間……あれ、なんなんでしょうね。私も含めて、経験ある人も多いんじゃないでしょうか。異性に対して期待しすぎて許せなくなっちゃうのが思春期の特徴かもしれません。
思春期を抜けてからは相手がちょっとみっともなくても「仕方ないなあ」と思えるようになりましたから。

『2週間のアバンチュール』

2週間のアバンチュール

“アバンチュール”っていいですよね。いつもより開放的な気分になるからこそ、自分の欲求にも素直になれる瞬間。

『2週間のアバンチュール』(中村明日美子/太田出版)は、登場人物たちの葛藤というよりは、思春期の動物的な欲求が見事に描かれている傑作です。主人公は、林間学校に参加するミステリアスな少女アンジュ。彼女と同室になるおませな少女ローズや、発育がよく滞在中に初潮がきてしまったマリー・ルーは、アンジュの思惑によって様々なひどい目にあってしまいます。

とにかく女の子の体に興味津々のアンジュ。初潮がきたマリー・ルーの肉付きのいい体と自分の体を見比べて、私はまだ女じゃないんだ、と鏡の前で一人思うシーンが印象的です。少しずつ肉体の変化が起こる思春期は、ついつい周囲にいる同世代の子たちにも目がいってしまうもの。

特に女の子は、少しずつ乳房が張ってきたり、生理が始まったり、一足早く男の子よりも体の変容が始まります。もしかすると性の目覚めや肉体への興味は、女の子の方がずっと早く、好奇心も旺盛なのかもしれません。男の子の事情を知らないので想像でしかないですが。

ちなみにこちらの作品には『バラ色の頬の頃』の番外編も収録。バラ色の頬の頃も、また思春期の少年同士の不安定な関係性を描いた傑作ですので、こちらも合わせてぜひどうぞ。

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『BLOOMS SCREAMING KISS ME KISS ME KISS ME』

BLOOMS SCREAMING KISS ME KISS ME KISS ME

最後にBL作品の『BLOOMS SCREAMING KISS ME KISS ME KISS ME』(ルネッサンス吉田/講談社)です。といっても、セックスシーンはなく、性的描写はキスまでなのであまり抵抗なく読めると思います。
ルネッサンス吉田先生の作品は、どれも文学的な含蓄が多く、この作品もBLだからといって避けてしまうのがもったいないほどの名作(BLじゃない作品もたくさんあります)なんです。

住職の子である真と、彼に恋をした愛されたがりな男子高校生の藍。藍の欲情を一身に受けながら、どんどん相手に深入りしてしまいそうな自分に怖くなる真。二人の思春期ならではの葛藤や不安、ほとばしる恋慕の情は、正直読んでる方も学生時代の恋愛を思い出してしまうほどリアル。愛されないのも辛いし、好きになってしまうのも怖い。不安定で初々しい思春期ならではの戸惑いが見事に描かれています。

この作品は藍の幼稚っぽいところが印象的ですが、実は彼って意外とシンプルで率直なんですよね。好きな人に触れたい。キスしたい。セックスしたい。そして、大事にしたい。むしろ、そんな藍のことを好きになっていいのか迷っている真の方が、意外と思春期らしい葛藤があるような。

当然ですが、セックスしたいという欲情と、相手を大切にしたいという愛情は両立できるんですよね。欲情し何度も真を困惑させる藍は、同時に、とある理由から距離を置くことを決めた彼のことを待ち続ける忍耐も見せます。

「けっきょく私のこと性欲処理だとしか思ってないんじゃないの?」なんて悲しくなっていた昔の自分に読ませてあげたい。大事なのは、性欲とか愛情とか関係なく、好きだと思った相手を大切にする、ただそれだけなのだ。

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まとめ

「青春」って言葉はキラキラとして甘酸っぱいイメージを抱きがちだけど、自分自身の過去を振り返ってみると、色々悩んだり苦しんだり、不安定な時期でもあったんですよね。だからこそ、そういう時期のゆらぎを見事に描いた作品が胸にグッときてしまう。

思春期のソワソワする感じ、大人になってマンガで思い出してみるのもいいですよ。

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この記事を書いた人

園田 もなか

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