2018.12.08
【日替わりレビュー:土曜日】『魔法? そんなことより筋肉だ!』小野寺浩二, どらねこ, レルシー
『魔法? そんなことより筋肉だ!』
本日紹介するのは小説投稿サイト「小説家になろう」発で商業書籍化した作品のコミカライズ。題名からしてパワー感ほとばしるファンタジー『魔法? そんなことより筋肉だ!』である。
主人公ユーリは、十数年にわたり森の奥深くに暮らしていた変わり者の青年だ。世間から遠く離れた森林では誰の助けもない。凶悪な魔物たちがうろつく過酷な環境でひとり彼はどうやって生きのびてきたのか?
鍛えたのだ、筋肉を! ただひたすらに鍛えて鍛えて鍛えぬいたのだ、全身の筋肉を!
その結果、ユーリの肉体はもはや巨大な魔物を拳ひとつで易々とねじ伏せ、強力な魔法攻撃をくらっても生身ではじき返す強靭さを宿すまでになっていた。身体に当たった風の刃はそよ風めいて雲散霧消。猛火は花火のようにかき消える。電撃は静電気ほどにも感じない。すべては強く美しく太ましい筋肉のおかげだ!
そんな彼が、森で迷子になった美少女エルフのフィーリアと出会ったことで外の世界を見たいという願望にかられ、彼女に同行して人里へおりる決心をする。基本的には自由気ままに旅をするつもりだが、冒険者ギルドを訪ねたユーリは最高ランクの冒険者になるという目的を見出した。
上位ランクの難しい依頼を受けることができる→色々な場所へ行ける→強い敵と戦える→戦闘で筋肉をさらに強く鍛えられる……この好循環、名付けて「筋肉無限浪漫軌道」を完成させるのだ! かくして、脳みそまで筋肉みっちりムキムキで究極の耐久力を備えた怪力男と彼にふりまわされるエルフっ娘、人呼んで“ゴリラと天使”のめくるめく筋トレ冒険譚が、いま幕を開ける……!
という具合に、あらゆる状況を筋肉でなんとかできてしまう主人公の強引さが痛快なコメディである。
超高速で繰り出した拳の空気摩擦で火を起こすやら、筋肉に含まれる水分と自然界の水分を共鳴させて飲み水のある場所を見つけるやら(「水の筋肉」という超概念!)、まったく魔力を持たないユーリが常識外れの筋力で起こす物理現象を“筋肉魔法”と言い張るさまに抱腹絶倒させられる。
そんな本作のコミカライズとしての最大の要点は、やはり小野寺浩二先生が手掛けていることだろう。
小野寺浩二(別名義「G.B.小野寺」)先生といえば、『妄想戦士ヤマモト』『嗚呼!熱血ロリータ番長』『外道ハンターX』ほか多数、狂信的なポリシーを掲げる男キャラが血涙ほとばしる真剣さと行動力で少女キャラを巻き込みつつドタバタする過剰熱血ギャグ(島本和彦先生の系譜ですね)を大の得意とするマンガ家さん。
その小野寺先生だから、熱血筋肉ヒーローが怒涛の勢いで己の信念に突き進む原作との相性は最高中の最高。いやーほんと、予備知識なしに読んだら小野寺先生のオリジナル新作と勘違いする人がいてもおかしくないレベルの馴染みかたなんですよ。
コミカライズというものは「どんな原作を選んでマンガ化するか」「原作を“マンガとして”どんな内容・表現にするか」という課題をつねに抱えるが、そこで「どんなマンガ家にこの原作を任せるか」という属人的なところに究極のマッチングを成功させた本作。オファーをかけた編集部に天才がいますね……。
©小野寺浩二, どらねこ, レルシー / KADOKAWA