2018.12.13
【日替わりレビュー:木曜日】『異世界おじさん』殆ど死んでいる
『異世界おじさん』
プレステではなくSEGAを選んだ青年が辿った異世界での17年
先に言っておくと、私はゲームのことはよくわからない。というより、当然のようにプレステを選んでプレイしていた人間なので、正しくはSEGAハードを選んでいた人の気持ちや価値観はわからない。ただ、この作品の異世界おじさんが、SEGAハードに並々ならぬ愛着をもち、そして異世界でもどかしいほどにズレた生き方をしてきたのだ、ということだけはわかる。
主人公のおじさんは、17才のときにトラックにはねられ、17年間昏睡状態だった。そんなおじがとうとう目覚めたからと病院に向かうと、おじさんは聞いたこともない言語を話し始める。頭がおかしくなった、と一瞬思うが、おじさんが証拠を見せるために呪文でコップを浮かし始めたので信じざるをえない。
この物語は、おじさんが17年間過ごしてきた異世界の思い出話がメインに進む。しかし、その思い出話は、ツッコミどころ満載の、おじさんがチャンスを逃し続けてきた軌跡でもあった。「ツンデレ文化」が浸透する前に異世界に旅立ってしまったおじさんは、度重なるツンデレ娘からのフラグを「嫌がらせ」として折りまくってきたのだ。
過ぎたことは何も言えない。ましてや帰れない世界のことは何も言えない。しかし、おじさんの「何もわかってない」思い出話を聞くたびに主人公は無念さを抱えて震えるしかないのだ。
ここまで哀愁漂う、そして、もどかしい異世界ものもない。異世界おじさんは、けっこう罪深い人だったのだ。
©殆ど死んでいる/KADOKAWA