コミスペ!

SHARE

2018.12.17

【2018年11月】マンガ家が選ぶ 今月の注目!新連載マンガ

毎月100本以上の新連載が始動しているマンガ戦国時代とも言うべき昨今。その中でも、マンガ家たちが注目した作品をピックアップしていく本連載。

今回は、2018年10月22日~2018年11月17日の間に始まった新連載マンガから「マンガ技術研究会」(マンガ家による勉強会サロン)が着目した作品を紹介いたします。

『迷宮探偵 久々湊錠(仮)』

どこかで見たような探偵モノ……それ以上でもそれ以下でもないかのように見える本作ですが、「地球温暖化により水位上昇し、国土が半分になった水浸しの日本」という奇妙な設定の時点で気付くべきでした……。

かなり強引に設えられたクローズドサークルの中で発生した密室殺人。怪しい容疑者たち。なにかに気付き、事件の真相へと迫る探偵。……が!

探偵、即死!! 

推理も微妙にハズレてる! 突然現れた魚人型の怪物に探偵はブチ殺されてしまい、物語はミステリーから一転モンスターパニックホラーへと変化するのです。

……というわけで、この作品は実はクトゥルフ神話であり、怪物はディープワンだったのですね。この手の「ミステリーだと思ってたら実はクトゥルフ神話だった」という作品には前例がないわけではないのですが(作品名を挙げたらネタバレになってしまうので言えない!)、本作が衝撃的だったのは、作品タイトルすらも変わってしまったこと。2話ラストでの探偵死亡を境に、3話からはタイトルが改題され、『迷宮探偵 久々湊錠(仮)』→『死もまた死するものなれば』に変更されるのです。

というわけで、KADOKAWA社の、勝負に掛ける前のめりな姿勢を感じさせた作品だったのでご紹介しました。3話からタイトルを変えるとか、本当にリスキーな選択だと思うのに、よくGOしたなぁ……。

だって本屋に『迷宮探偵 久々湊錠(仮)』を買いに行っても買えないんですよ。とても挑戦的な作品だと思いました。

『カタコトの庭』

英国から来た女の子と園芸少年のラブコメです。

本作の興味深いところは、お互いに相手の言葉が分からずコミュニケーションが成立し辛い状況から、恋愛の萌芽が生まれていくところです。互いを意識している思春期の少年少女の心情がすれ違うのは自然の摂理であり、様々な作品で既に描かれているところではあります。

が、それだけでなく、本作ではそもそもコミュニケーションが成り立っていない。思春期少年少女のすれ違いに言語的なすれ違いが重なりつつも、しかし、そのコミュニケーションの難しさゆえに二人は結び付くという、逆説的な構造になっています。

また、現代ではスマホやSNSなど情報通信手段が豊かになったことで、「すれ違いにくい」状況が生まれているとも言えます。コミュニケーション不全による勘違いやすれ違いには昔ほどのリアリティが得られないのです(「メールしろよ」「LINEしろよ」で解決してしまう)。

そんな「すれ違いにくい」世界で、少年少女があえてすれ違うために、本作では英語と日本語という言語的な壁が設定されているのかもしれません。

『あ~んちゃんのあ~ん』

本作はあ~んちゃんが、オチで「あ~ん」と言うだけのマンガです。

これの元ネタはおそらくボードゲームの『はあって言うゲーム』。このゲームはプレイヤーがそれぞれ指定されたお題に沿って「はあ」と言う演技をして、他のプレイヤーが「どの意味での『はあ』を発したのか」を当てるというものです。

「はあ」って言っても、「なんで?の『はあ』」や「力をためる『はあ』」「失恋の『はあ』」など、様々な感情表現としての「はあ」があるため、それを巧みに演じ分け、巧みに把握するのがキーとなるゲームです。

同様に本作におけるあ~んちゃんの「あ~ん」にも様々な意味合いがあり、それゆえに毎回オチが「あ~ん」で成り立つという、そういう仕組となっています。

で、元ネタが本当に『はあって言うゲーム』だとしたなら、これは創作の方法論として一つの可能性ではないかと考えるのです。つまり、あるゲームの面白味を見抜くことができたなら、その一点からだけでもマンガ作品が一つ作れるのではないか。本作は「はあ、には色んな意味がある」という面白さを抜き出して、そこから作品を一つ作ったわけです。

この視点を持つことにより、様々な可能性が開けるような気がしています。既存の作品が秘めている「面白さのコア」を見つけ出せれば、そこから作品ができちゃうのかも……?

『ひゃくえむ。』

世にも珍しい100m走を主題としたスポーツマンガです。

スポーツマンガって基本的に難しいんですよね。相手と直接殴り合えるボクシングや、満塁逆転ホームランのある野球とかは、まだ話をドラマチックにしやすいんですけど、例えばテニスとかだと大変です。相手の技を見抜いて攻略したからって、一気に5点も10点も入りません。たった1ポイントだけなので、そこからゲーム終了までも描かなきゃいけないんです(ただし、相手を物理的に殺傷しうる『テニスの王子様』は除く)。

そんなわけで、ルールの存在によりスポーツマンガは何かと大変なんです。

そんな大変なスポーツ物の中でも、100m走は輪を掛けて大変です。そもそも、主人公たちがなんで100m走なんてスポーツをしているのかそこから分からない。バスケや野球ならまだなんとなく分かる。けど、なぜ走るのか、なぜ勝ちたいのか、その動機を説得力を持って描くことがまず難しいんです。

動機をむりやり付与しようとするなら、「子供の頃に見たテレビで憧れた」とか「走ると風を感じられる」とか、そんなことを考えてしまいがちですが、その動機って面白いの? 共感できるの? って感じですよね。

しかし、本作に登場する主人公格二人の動機は、この動機問題を面白い形でクリアーしていました。それぞれの動機はこうです。

「走るのは辛い。現実より辛いことをすると現実がぼやける」
「たいていの問題は、100mだけ誰よりも速ければ全部解決する」

ふたりとも小学生なのにすごく異様な動機を持っています。いわば「現実逃避としての100m走」「究極的解決手段としての100m走」です。異様でありながら、しかし、そこはかとないリアリティを感じさせます(特に「究極的解決手段としての100m走」の方)。う~~む、まさかこんな形で動機面をクリアーしてくるとは……!

基本的に難しいスポーツマンガ、その中でもさらに難易度の高い部類のスポーツを題材にしたマンガの描き方として、本作は非常に参考になる作品だと感じました。



以上、100作品以上の中からピックアップした4作を紹介いたしました。他にも特筆すべき作品は幾つもありましたので、新連載作品に興味を持たれた方は、こちらから色々な作品を読んでみてくださいね。

この記事をシェア!