2018.12.22
【日替わりレビュー:土曜日】『社畜に死神が憑く案件』くろたま
『社畜に死神が憑く案件』
『社畜に死神が憑く案件』は、KADOKAWAメディアファクトリーの「月刊コミックジーン」がWeb上でpixivコミックと連携して展開する「ジーンピクシブ」で連載されたwebマンガ。pixivコミック限定で2016年11月に始まり今年の夏に完結、単行本は全3巻が出ている。
内容はその名が示す通り、ワーカホリックな会社員と死神のおかしな同居生活を描いたファンタジーコメディだ。
主人公・有本栞はとても有能な会社員の女性である。しかし、その有能さが仕事の忙しさを呼び込んでしまい、くたくたの疲労困憊に陥っていた。
人手不足。物覚えの悪い後輩社員。作業を押し付けて帰る上司。分野違いの頼まれ仕事……人には頼れない。私が全部やらなきゃ。みんな大変なんだし。甘えちゃダメだ。自分ならできる。だからちゃんとやらなきゃ……。
もうすこし彼女の能力が低かったり、無責任であればむしろマシだったろう。適当なところで手を抜き、投げ、サボり、いっそ辞めてしまう選択肢もあったはずだ。しかし栞は、“がんばれば一人で出来てしまう”タイプの人間だった。
だから絶え間なくがんばってがんばって一級品の社畜になってしまい、どんどん疲れをため込んでいく。
そんなある時。12連勤で一日2時間そこらしか睡眠がとれないボロボロの状態で帰宅した栞の前に、黒ずくめのマントをまとって下半身が透けている仮面の男が現れる。
怪しい男は、自分を死神だと説明した。死神は魂の回収屋だ。運命に予定されたタイミングを厳密に守り、寿命が尽きた人間の魂を刈り上げる役目を担っている。その「タイミングを厳密に守り」というのが問題だった。
なにしろ、栞は社畜のハードモード真っ最中である。いつどこで過労死してもおかしくない。本来なら彼女はこれから何十年も生きながらえる「予定」なのだが、運命を狂わせて早死にする確率がきわめて高いのだ。
そこで死神界の打った対策は、監視と指導。栞の担当になった死神がぴったり憑依しておはようからおやすみまで暮らしを見つめ、食事の世話をはじめ家事の諸々までせっせと介入して生活クオリティを上げ、心身の健康を保たせてやるのだ。
かくして、自ら命を削る働き方を躊躇しない社畜OLと、人間の寿命を伸ばす努力にいそしむ死神の奇妙な綱引きが幕開ける……。
上の紹介でもお分かりと思うが、栞の寿命が危ういのはただ単に仕事が忙しくて疲れがたまるからだけではない。「頼れない」「甘えられない」という、性格に関わる根本的な部分にどう向き合うかが、人物の、そして物語の大きな課題になっている。
最終的に、甘え下手だった栞は死神「ガミ」との交流を通して自分や会社の仕事を見つめなおし、“組織において自分ひとりですべてやろうと無茶するのは「人に任せるという仕事」を放棄している”のだという逆説的な道理へたどりつく。
その姿は、社会人だけでなくあらゆる年齢層で「生きづらい真面目さ」に自らを追い込む個人に寄り添う図として非常に良心的だし、感動的ですらある。
そしてまた栞の性格上の問題点は、もういっかい裏返せば優しさや責任感の強さのあらわれであって、それはそれでけっきょく人間の魅力にはなりうると思わせるのも面白い。栞を間近で眺めるガミが彼女に心惹かれていくさまは、そういう再照射として機能しているといえるだろう。
社会人のお仕事ドラマとしての趣に、誰にでもありうる“がんばりすぎ”なパーソナリティを浮き彫りにする誠実な人物造形と、にぎやかな日常コメディ面、ほのかなロマンス色……と多彩な読みごたえをもつ、この『社畜に死神が憑く案件』というwebマンガ。本日のおすすめです。
©くろたま/KADOKAWA