2019.01.10
【日替わりレビュー:木曜日】『鬱ごはん』施川ユウキ
『鬱ごはん』
ご飯ってそんなに感動するか?
小学生の頃、実家に置いてあった『美味しんぼ』をよく読んでいた。読んでいるとお腹が空いてくる。美味しそうなご飯を美味しそうに食べる姿はどこかエロティックなところもあって、エッチなマンガを読んでいるときと同じような快楽物質が脳内で分泌されているような気分になる。
しかし、じゃあ現実はどうかというと、私はいつも決まったファーストフード店に行き胃袋を満たすばかりで冒険をしない。家で自炊をするときは自分が食べたいものを作るが、わざわざ高級食材やこだわりの調味料などを調達することもないし、食べても「まあ、いつも通りだな」と大きな感動もない。毎日の排泄や睡眠と同じように食事をこなしている。
そんな私にとって、施川ユウキ先生の『鬱ごはん』は、かなり現実に沿ったリアルな作品だった。
この作品を一言で説明するなら、主人公がひたすら不味そうに飯を食べるグルメマンガだ。主人公は鬱野たけし、22歳、就職浪人。名前のとおり鬱々とした彼が、とにかく不味そうに飯を食っていく。
序盤から飛ばしていて、第一話ではチェーンの牛丼屋で注文したブタ焼肉定食が「食べ物に含まれるグルタミン酸やイノシン酸を下の味蕾が受容しその情報が電気信号として脳に送られる。『うまい』とはその反応に過ぎない」や「壮厳なるブタの『死』は一瞬の電気信号に消える」という夢も希望もない表現で語られる。
出てくる食べ物は様々で、回転寿司に行くときもあれば、ファーストフード店でハンバーガーを頼むこともあるし、宅配ピザを注文したり、家でポテトチップスを揚げたり、ペペロンチーノを作るときもある。どれも身近な食べ物ばかりで、そのどれもが本当に美味しくなさそうだ。そして、その美味しくなさそうな感じが、すごく想像できる。
寿司が好きな主人公が回転寿司で白身魚の寿司を食べて、「うん!普通!!」とルーティーンワークのように食べ続けたり、後ろに他のお客さんが並んでいるのに焦って適当なドーナッツを買った結果似たようなやつばかり選んで「やけ食いするフリ」で乗り切ろうとしたり、ホットケーキを焼く最中に吹き出るブツブツとした穴に蓮コラを連想したり、日常の本当に細かい「美味しくなさ」をものすごい精度ですくい取っていて、もはや作者の狂気を感じてしまう作品だ。