2019.01.26

【日替わりレビュー:土曜日】『CITY HUNTER外伝 伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常』えすとえむ, 北条司

『CITY HUNTER外伝 伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常』

整然としたオフィス街と雑然たる歓楽街。ふたつの側面がそこに生きる者たちの人生を照らし出す都市、新宿。そのかたすみに、裏社会が関わるトラブルや法で裁けぬ悪党に悩まされる人間の依頼を受けては事態を解決するスイーパー(始末屋)がいた。

大都会の光と闇のすきまを駆け抜け、愛銃コルト・パイソン357でいかなる敵をも退ける男、その名は冴羽リョウ。またの名を“シティハンター”……。

というあらましで、1980年代半ばから90年代初頭まで「週刊少年ジャンプ」に連載、アニメ版もふくめて大人気となったのが言わずと知れた『CITY HUNTER』だ。

パラレルな後継作『エンジェル・ハート』も長く続いたほか、たびたび実写映像化もされており(最近フランスで翻案映画が作られたりも!)、その作品宇宙はたいへんに広く、息が長い。

そして来月上旬には、テレビアニメ最後のスペシャルからは20年ぶり、劇場作としては実に30年近くぶりの新作アニメ映画『劇場版シティーハンター <新宿プライベート・アイズ>』が公開されるが、原作者の過去作『キャッツ・アイ』主役の三姉妹がゲスト出演するという情報が話題になったのが記憶に新しい。

その『キャッツ・アイ』で三姉妹が表の顔として営む喫茶店は『CITY HUNTER』にも登場する。そして劇中で店のマスターとなる人物こそが通称「ファルコン」、あだ名で「海坊主」と呼ばれる伊集院隼人だ。元は傭兵で、冴羽リョウとは互角の腕前を誇る同業者。何度もしのぎを削ったライバルにして悪友のような関係性が印象強いキャラクターで、読者人気もたいへんに高い。

そんな人気キャラクターを主人公とするスピンオフが、Webコミックサイト「コミックタタン」で連載中の本作『CITY HUNTER外伝 伊集院隼人氏の平穏ならぬ日常』というわけだ。

主な内容は、喫茶店を訪れるお客さんを相手に、海坊主が恋人の美樹と共にどのような応対をくりひろげているかを心温まる筆致で描く人情噺となっている。

時代の変化についていけない中高年女性と女子高生の交流をとりもったり、猫探しをする幼女の手伝いをしたり、仕事の目的に迷う警察官の女性に大切なことを思い出させたり……。

スピンオフというものが原典に対してどのようなアプローチをとるかは、ざっくり分ければ「本来ならありえなかったIFを見ることができる」楽しさでいくか、あるいは逆に「本来あったはずだが省略されたものをはっきり見ることができる」楽しさでいくかという二種類がありうるが、この海坊主スピンオフは後者にあたる。

見上げるように大きく屈強な身体に威圧感たっぷりの強面(こわもて)ながら女性相手には極度の照れ屋で純情、猫をこわがるなんて弱点もある海坊主の剛柔ギャップの魅力は原典のエッセンスをしっかり反映させたもので、そのうえで「ふだんは喫茶店を営んでいる」という一点をふくらませて市民的な日常へフォーカスする手筋は、「こういうこともあるんだろうなあ」とファンを納得させる趣にあふれている(そもそも原典にも海坊主が喫茶店のお客に心を配る光景を描いた回があるので、その意味でも「有るものをふくらませた」仕立てといえる)。

“原典に忠実な設定の範囲内で最大にありうるいい話”がぎゅっと詰まって気持ちよく読み進められるエピソードぞろいの良作だ。

……以下余談。
もう一方の「ありえないIFを楽しませる」タイプの外伝としてインパクトが強いのが、月刊コミックゼノン連載の『今日からCITY HUNTER』という作品。

電車にひかれて死んだ四十路の女性がシティハンター世界に女子高生の肉体で転生(!)、冴羽リョウやパートナーの香とかかわりをもつという強烈な内容で、絵柄の完コピっぷりがよけいに設定の飛躍を際立たせている。

これと『伊集院隼人氏の~』をあわせて読めば、「同じ作品から生まれてこうも切り口が違うのか!」と鮮烈な体験を味わえることだろう。

いやあ、スピンオフって面白いね。

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miyamo

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