2019.02.01

【日替わりレビュー:金曜日】『シンデレラ・コンシェルジュ』七島佳那

『シンデレラ・コンシェルジュ』

開始3コマで失職破局

開始3コマで、会社を辞めて、彼氏にフラれるんですよ、このマンガ。

この圧倒的なスピード感。日々生まれる有象無象の物語達の中でも、埋もれること無くキラリと光る存在感。

いや、まあ実際のところ冒頭でドンと展開しておいて……という作品は少なくないんですが、大体の作品はその粗さが本筋でも続いてガッタガタなままエンディングを迎えるのに対して、本作『シンデレラ・コンシェルジュ』はちゃんと読める物語になっているんですよね。

作者の七島佳那先生というと、「ちゃお」→「ChuChu」→「Sho-Comi」と渡り歩いた中堅、いやもはやベテランと言って差し支えない実績ある先生。その実績からも、読める物語に仕上げるのはお手のものという感じなのでしょうが、本作が面白いのは、きちんとラブストーリーのラインを紡いでいるのに、同時に物語を壊しかねない突飛な設定やネタをぶっ込んで、絶妙なバランスで作品を成り立たせているところ。

改めてあらすじを…

主人公の愛希子は好きな人にはとことん尽くしてしまう体質。

彼の「ずっと一緒にいたい」という言葉をプロポーズと勘違いして早々に会社を辞めちゃうのですが、そんなつもりのない彼から「怖いんだけど」とフラれ、職なし彼氏なし(おまけに住むところなし)の状態に。そんな彼女が紹介されたのが、高級マンションのコンシェルジュのアルバイト。で、見事採用されるのですが、その雇い主の管理人は同じ20代のイケメン青年で……というストーリー。

謎の高スキルヒロイン

あらすじを見る限り、突飛な要素って、彼の言葉に勘違いして会社辞めちゃったってところぐらいに見えるかと思うんですが、実際に作品を読んでいくとそうじゃないんですよ。

まずバイト採用の面接、パーティルームで面接を待っていたら、イケメンの青年2人に出会うんですけれども、そこで身の上を語って泣き出してしまうという。いや、普通に怖いよ。しかもそれが管理人に受けて採用に至るっていうクレイジー具合。

さて、かくして晴れてコンシェルジュとして働き始めるんですが、ここで彼女は思わぬ才能を発揮します。もともと凝り性で尽くしすぎな体質であったため、付き合う彼のために色々なスキルを磨いた結果、様々な資格やスキルを持つ女性となっており、料理や洗濯なんてチョチョイのチョイ。果てはマグロを解体したり、トルコアイスのパフォーマンスをしたり、韓国語を話したりと、様々なピンチをその多彩なスキルで乗り切ります

というかそもそもどういう経緯でトルコアイスのパフォーマンスを習得しようとしたんだよっていう。謎すぎます。

これまた珍しい相手役の職業

通常、この手のレーベルの作品って、何の取り柄もない主人公が才能溢れるお金持ちのイケメンに見出されて……というのが王道なのですが、本作に関して言えばむしろヒロインの方が才能溢れてるんじゃねーかっていう。

もちろん相手役もイケメンお坊ちゃんなんですが、「マンション管理人」って、競争社会を勝ち抜くナンバーワン感もなければ、祖父の資産を受け継いで不労所得で暮らすわけで、才能あふれるオンリーワン感も薄い。お金はあるけれど、それ以外のステータス的にあんまり女性向けマンガのヒーロー然とした感じがしないんですよね。

もちろんその分内面勝負で、優しいところやウブな一面が描かれるんですが、やはりヒロインのインパクトの前ではその個性がかすみがちではあります。

絶妙なバランスで成り立つ奇作

さて、気がつけばここ最近ないぐらい長々と書いてしまいましたが、ツッコミどころ満載で笑いもあればキュンもある、なんとも絶妙なバランスで成り立っている奇作となっております。

福山雅治の家に不法侵入したコンシェルジュも、そんなずるいことしないで、コレ読んで見習ったら良かったのにね。この作品がもう3年早く世に登場しなかったことが、悔やまれます。

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いづき

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