2019.02.08
【日替わりレビュー:金曜日】『先生、あたし誰にも言いません』藤緒あい
『先生、あたし誰にも言いません』
顔は広く、物語は深い
藤緒あい先生、だんだん凄みを増してきていませんかね。なんというか、だんだん人間離れしてきたというか。
まずはその神出鬼没ぶりに驚かされます。小学館の「Cheese!」で描いていたと思ったら、突然講談社の「KISS」や祥伝社の「フィールヤング」に姿を現して、ついには秋田書店にまで出現ですよ。
で、ただ出版社が複数にまたがっているのであれば「顔が広いんだな」ぐらいの感想なんですが、恐ろしいのはどんどんエッジが効いた作風になってきているところ。元々は「Cheese!」に馴染む、オーソドックスな恋愛ものを描いていたイメージなのですが、突然還暦BLをぶっ込んできたり、魔法少女好きなコミュ障オタクをメインキャラにしたり、勘違いブサイク無敵OLの生き様を描いてみたり、その引き出しの多さ、振り幅の大きさにビビります。そして今回投入してきたのがこちら『先生、あたし誰にも言いません』。
内容は、教師と生徒の禁断の愛を描いた物語……というと、マンガ作品としては王道とも言える題材のように映ると思うのですが、これがなかなか独特の風合いでして……
こんなあらすじ
物語の主人公は女子高教師・清野正広。若いので生徒からはモテるものの、手出しはご法度なので、何か特別良いことがあるってわけでもありません。いわば、平穏で退屈な日常。ところがある日、クラスでも地味な寄原からの告白でそんな日々は一変。手を掴まれて、露出した胸にあてがわれるとともに向けられた「好きです…だから…してください」の言葉。そこからは夢中で、気がついたら”事後”。ふと我に返り、血の気の引く清野でしたが……というお話。
そう、愛だの恋だのしたり、理性と感情の間で揺れる前に、衝動のままにいきなりしちゃうっていう、セックスからはじまる教師と生徒の恋愛。
その後、「付き合ってくれたら誰にも言わない」と寄原に言われ、付き合うことにする清野。しかし、寄原の距離感がどうにもおかしく、学校の廊下の踊り場とかで「ここでしてください」とか言ってきたりと、その言動に戸惑います。別にエロマンガってわけじゃないんですよ。そして彼女自身、性欲旺盛という感じでもなさそう。実はそこにはかなり重たげな背景が潜んでおり、読み進めるごとに徐々にそれが明らかになっていくのですが、いやー、これがなかなかしんどいやつなんです。
重いはずなのに明るさ含みで面白い
ともすれば、重苦しすぎる展開にすらなりえる背景設定。しかしこれが作品全体として重たい雰囲気にならずに、なんなら明るさ含みで面白く読める作品になっているのは、主人公の清野が能天気でいかにも底が浅い人間という感じで、結果的にコメディタッチになるから。そういう意味で、うまくバランスの取れた作品になっているのだなと感心させられます。
というか、どうやったらこのバランス感になるの? 狙ってやってるの? だとしたらすごくないですか? 意図的なのかわかりませんが、できればこのまま芯を外しつつ進んでいってもらいたいなぁ、と。
というわけで、作品を重ねるごとに凄みが増す藤緒あい先生、いよいよ来るところまで来たなという印象の一作。全力でおすすめです。
©藤緒あい/秋田書店