2019.02.13
【日替わりレビュー:水曜日】『こじらせ百鬼ドマイナー』南郷晃太
『こじらせ百鬼ドマイナー』
妖怪だって、自分のこと知ってほしいんだ
歴史ある妖怪、嘗女(なめおんな)。男の人の身体を嘗め回す女性型の妖怪。由緒ある妖怪らしい。……ごめんなさい、それは聞いたことないですね……。
古今東西老若男女、数多の妖怪たち。とはいえ認知度が低い妖怪はとても多いもの。そんなマイナー妖怪たちの青春物語。
何かの間違いで、妖怪の学校に入ってしまった人間の渡海隼人(とかい・はやと)。困惑する彼の案内係になったのは、飴宮初夏(あめみや・はつか)という少女だった。
パッと見、一般的な人間そのままの姿の彼女。なぜか自分のことをあまり話そうとしない。彼女の正体は嘗女。幼い頃は同じ世代の人間に打ち明けたものの、「気持ち悪い子」認定をされ、ハブられ、心に傷をおった。以後、打ち明けるのをやめて、心をすっかりこじらせてしまったらしい。
他にもアイドル志望の紅坂光子(こうさか・こうこ)や、他人に関わらないようにひっそり過ごしている瀬々良木碧(せせらぎ・あおい)など、迷走する思春期の妖怪たちが次々登場。隼人は皆を観察しながら、一緒に学園生活を送り始める(2人が何の妖怪かは、読んでみてください)。
諸説あるが、日本の妖怪は人を驚かせるなどして、自身の存在をちらりと見せ、知らしめることを存在意義にしていたらしい。となると、「知られていない」「気持ち悪がられている」場合は、ただただ辛い。実際、歴史に残る嘗女は「ただの変人の奇癖」説もあったそうな。
本物の嘗女である初夏がそれを聞いたら、傷つくのも無理はない。人に知ってほしいとかつて願ったのも、彼女なりの尊厳だったんだろう。
隼人は積極的に初夏を助けようとはしていない。ただごく普通に彼女に接し、彼女の「妖怪としての個性」を受け入れていく。初夏のことを知ろうとし、自分のことを伝えていく。相手のアイデンティティを大切にすることは、それぞれが「個」を持ち、お互いの関係を作っていく第一歩。妖怪・嘗女として初夏と接することは、彼女を1人の存在として認め、尊重することに他ならない。
魑魅魍魎あふれる作品だが、各々が自我を持ち、人間(?)関係を見つめ直すジュブナイルとしては、かなり真っ直ぐな芯の通った作品だ。
©南郷晃太/集英社