2019.02.14
【日替わりレビュー:木曜日】『わたし、いい人やめました』カマンベール☆はる坊
『わたし、いい人やめました』
どうやって怒る?
カマンベール☆はる坊先生の描くエッセイマンガ『わたし、いい人やめました』は、社交性があり温厚な「いい人」である著者が、そのレールを外れてきちんと怒ることができるようになっていく作品だ。
はる坊先生は、揉め事を避けおだやかに32年間生きてきたが、ある日会社の同僚から心無い一言を言われたことで、気持ちに変化が起こる。
その場では何も反論せず「アドバイスありがとう」とお礼まで言えたはる坊さんは、しかし家に帰ってから「どうして馬鹿にされるんだ」と泣いてしまうほど悔しがる。2週間経ってももやもやが晴れず、試しにと今の気持ちを紙に書き出して見たら、自分でも引くほど怒っていた。
それから、はる坊先生は「いい人(=社会規範を気にしすぎる人)」から脱却しよう、と試行錯誤を始める。
機嫌が悪くなると話し合いをしようとしない旦那、「女性だったらピンクにハートのデザインだ!」と譲らない分からず屋のクライアント、会社員をしながらマンガを描いている著者に「いいよねェ!趣味でお金稼げて!!」と言うフリーランスのライター……など、誰しも一度は共感できるのではないか、と思うような理不尽な現実のオンパレード。
それに対して、著者はスルーせずにひとつひとつ正面から受け止め、自分の気持ちと向き合っていく。
とても内省的で、俯瞰的に描かれているから、単なる「怒れなかった悲劇のヒロインが努力した物語」にならないのがいい。作品の中で、著者はなんども自己を振り返りながら、そこにいる「ずるい自分」にも自覚的になっていく。
あまり好きではないプライベートの相手にすら怒れないことを「保身」として「あなたのこと好きじゃないけど見捨てないで〜」という自分の心の声として描く姿には、正直ギクッとした。私も、好きじゃない相手に「見捨てないで」と思って、怒れない瞬間多々あったな、と。というか、そういう人多いのではないだろうか。
誰しも一度は「なんであのとき怒らなかったのだろう」と後悔する瞬間はあるだろう。きっとこれからもあるだろう。そんな自分を、もっと気軽に自由にさせてあげる作品だ。
©カマンベール☆はる坊/講談社