2019.02.15
【日替わりレビュー:金曜日】『マリッジパープル』林みかせ
『マリッジパープル』
『うそカノ』の林みかせ先生の新連載『マリッジパープル』の第1巻が発売されました。それではさっそくあらすじの紹介を……
憧れの高校に入学した凛は、理不尽な暴君・諭吉と3年ぶりに再会。昔から何かと絡んでくる諭吉をやり過ごそうと差し出された紙に名前を書くと……なんとそれは婚姻届だった! 返してもらう条件は「3年間オレの側から逃げない」こと。暴君に捕まった凛の運命は……!?
ちょっと何言ってるかわかんない
というわけで、小学生時代に苦手だと感じていた暴君に高校で再会し、なんか話しかけられたんだけど「逆らったら面倒なのでここは全て頷いてやり過ごそう」と話も聞かずにハイハイ言ってたら、婚姻届に名前を書いちゃってたという、ちょっと何言ってるかわかんない系の導入です。
なんていうか、文章にしてみたら少しは分かるかなぁ……なんて淡く期待していたんですが、見事に打ち砕かれましたよね。いや、マジでわからん。婚姻届を書かせる理由も、書いてしまうおマヌケぶりも。
で、そんな本作、その婚姻届を取り返すべく、常に側にいることになるのですが、その後も側にいるのを良いことに、「体育倉庫に一緒に閉じ込められる」とか、「部活のイベントで一緒にキャンプに行く」とか、「間違えて手錠しちゃって離れられなくなる」とか、「気づいたらベッドで一緒に寝てた」とか、安易なラブイベントが、これといった脈絡もなく続々と投入されてくるんですよ。つまるところ、話運びはかなり粗い。
なんでこんな設定展開で面白くできるのか
ってここまでディス方向の文章になっちゃってるんですが、ここまではあくまで前段。伝えたいのは、この通り設定といい展開といい、割とむちゃくちゃやってる作品にも関わらず、悔しいことにおもしろいってことなんです。
このガチャガチャとした物語展開、普通だったらクソつまんない独りよがりな作品になると思うんですよ。でも林みかせ先生の手にかかれば、キャラクターの可愛らしさと、ほんわかとした会話や雰囲気だけで、一定水準以上の物語として成立させちゃえるんだから恐ろしい。
なんて可愛いキャラクター
なんといってもメインキャラ2人が圧倒的に可愛らしい。
相手役の諭吉は”暴君”なんて形容されていますが、読みはじめて5ページで「あ、これ凛のこと好きなやつじゃん」とわかるぐらい、好意がダダ漏れ。『ラストゲーム』の柳や、『君は春に目を醒ます』の弥太郎といった、ヒロインのことめちゃくちゃ好きだけど愛情の伝え方が下手すぎてから回っちゃうという、最近の「LaLa」では定番ともいえる、圧倒的に愛おしいタイプの男の子なんですよ。
スカした感じで振る舞っていますが、もはやお母さんという域の気の回し方だったり、不意に好意を向けられた時の照れ具合だったりを見ると、無意識にニヤニヤできちゃうレベル。なんていうか、ハイスペックなくせに圧倒的にチョロそうなところがいいんですよね。拭えない童貞っぽさというか。
一方のヒロイン・凛は、お人好しがすぎて行動が遅くなりがちな、不器用かつどんくさいタイプ。それゆえに諭吉も過保護になるという(でありながら口では文句言う)。
察しの良い子であれば「あ、私好かれてる」と気づくのでしょうが、この手の相手役が生まれるのはヒロインの鈍さにも原因があるわけで。その諭吉の言動をストレートに受け取り、「意地悪されている」「苦手」という認識を持っています。ラブコメするには、もはや鉄板とも言える組み合わせですね。
もはや卑怯
この互いの認識のギャップを埋めるのが一つの見所になるわけですが、もうこんなのキャラクター設定からして勝ちなんだから、何やっても「かわいい」「ニヤニヤできる」となって満足させられちゃうわけですよ。もはやこのキャラクターの可愛らしさは卑怯と読んで差し支えないでしょう(最高の褒め言葉です)。
今回もまんまとやられてしまった自分が情けない(2巻の発売、めちゃめちゃ楽しみです)。
©林みかせ/白泉社