2019.02.22
【日替わりレビュー:金曜日】『徒然日和』土室圭
『徒然日和』
女性向けマンガ担当という括りで毎週作品を紹介してるんですけれど、実はちょこちょこと「百合マンガ」を忍ばせているんですよね。というわけで、今日ご紹介するのは百合系の作品です。
1巻のキャッチコピーは「田舎の女子高生は好きですか?」。友達以上恋人未満な女子高生4人組が送る、田舎のまったりスクールライフです。
素敵なのは帯に落とし込まれたコピー。
「放課後に聞こえる吹奏楽部の音や、雨の日のアスファルトの匂いを覚えていますか?」
「この時間はきっと、10年後の大切な想い出になる。」
と、どちらも青春時代の、学校生活の情景を思い起こさせるもので、文字列だけでエモい。
舞台となるのは海と山に囲まれた田舎街。地元が同じ3人に、東京からやってきた1人を交えて4人組で送ります。「恋人未満」なんて書きましたが、そこに明確な恋愛感情は無く、友達の延長線上にあるような“特別な気持ち”がメインという感じですかね。なのでしっかり「百合」という感じではありません。
先述のキャッチコピーの通り、なにか大きな出来事が起きるというわけではなく、ごくごくありふれた日常を切り取った作品。ほんわかとした雰囲気で物語は進みます。もう圧倒的に日常なんですけれども、ゆっくりと時間の流れる田舎で、女子高生たちがきゃっきゃする風景はどこまでも幸福感に満ちていて、読んでいて本当にほんわかと幸せな気持ちになれるんですよ。
これほどまでに幸せな気持ちになれる作品って、ここ最近そんなになかった。
「癒やし百合」なんていうとちょっと足りないぐらいで、もはやこれは「尊い」という感覚に近いです。描かれる風景はめちゃめちゃ日常でありながら、自分の目の前に現実として広がることはないであろう絶対的な非現実感が、その「尊さ」に拍車をかけます。
1巻は、入学直後、季節は春でそれぞれが仲を深める段階でしたが、2巻では季節が夏に移ろい、より青春の匂いが強くなっていきます。加えて社会人の年上お姉さんトリオが登場し、物語に縦の広がりが生まれました(世代的な意味で)。こちらはキラキラな女子高生たちとは異なり、少しアンニュイな雰囲気を醸し出したりと、エピソードによって作品の表情が変わるのが面白いところ。
他にもほんわかではなく、少し暗い背景のある感動路線ど真ん中のエピソードが投入されるなど、キャラクターたちの関係性に深みを持たせる動きも。このあたり、物語を変化・成長させようと試みる作者さんの意図が見え隠れして、そのあたりも面白いです。
女子高生が好きでもそうじゃなくても、とにかく尊い最高の癒やし作品を、ぜひぜひ手にとってみてください。いや、ほんと尊いから。
©︎土室圭/一迅社