2019.02.27
【日替わりレビュー:水曜日】『好きな子がめがねを忘れた』藤近小梅
『好きな子がめがねを忘れた』
見えないときに目を細める女の子って最高にかわいくないですか
クラスメイトの好きな子が、めがねを忘れて目つきが悪かったら、かわいいよね、という限定シチュエーションでストーリーが次々出てくる事自体にびっくり。
ラブコメだったら大抵はそんなん一回こっきりのネタ。でもいいよね、見えない時の細めた目。願望を、全く薄めず一冊まるまる特濃で描いているので、表紙を見て気になった人は今すぐ買うべし。
小村の隣の席の三重は、分厚いレンズのめがねをかけた女の子。ちょっと不思議ちゃん。彼女に恋をしている小村。ある日三重は、初めてめがねを忘れてきてしまった。
ほぼ何も見えないらしく、常に目つきが悪い。かつ近づいてもはっきりとは認識できていない。三重は小村にものを尋ねる度に、ものすごく近づいてくる。小村としては気が気じゃない。
三重がしばしば小村に近づいて見るのには理由がある。困っている時に手助けしてくれる、小村の顔を忘れないようにするためだ。
最初は「見えない」ことがネックになって、小村の至近距離に近づいていた三重。めがねを忘れがちな彼女は、小村に色々なお願いをするようになる。
「私よくめがね忘れちゃうでしょ もしそれでどうしても困っちゃったら小村くんに助けてもらいたいから……」
ここで、家族に頼ればいいのではと当たり前の返しをする小村。それに対して返してきた三重の発言が、殺人的。
「小村くんになら恥ずかしいとこ見せてもいいから」
クラスメイトには、小村の気持ちも三重の感情も筒抜け。三重のめがねが無い時は、キス寸前の距離まで近づいており、完全に二人の世界。もちろん別のクラスメイトも三重に話しかけたりはするが、その時の反応はこう。
「小村くんだと思ってたからめっちゃ気ぃ抜いて話しちゃった……はずかし」
天然、おそるべし。
めがねをかけたら用なし、ということもなく。どんどん小村に心の距離が近づいていく様子を、小村目線の一人称視点で表現。さらに「めがねが無く見えない状態で微笑んだ顔」という、他ではなかなかないシチュエーションの表現もある。
三重が見えないから近づいてよく見ようとするのと同じく、小村が好きな子の新たな一面を次々発見していく様子もまた、ドキドキもの。
©藤近小梅/スクウェア・エニックス