2019.03.02

【日替わりレビュー:土曜日】『ケンガンオメガ』 サンドロビッチ・ヤバ子, だろめおん

『ケンガンオメガ』

企業どうしでカネやモノの利害がぶつかった時、どうやって争いにケリをつけるのか。一般大衆には知られない、ひとつの方法が存在する。それは、各企業が雇った「闘技者」による素手喧嘩のタイマン勝負──「拳願仕合(けんがんじあい)」

空手に合気道、キックボクシングやプロレスといったメジャーなものの他、ミャンマー伝統武術「ラウェイ」など国際色のあるもの、また沖縄発祥の殺人拳法や謎の古流武術といった得体の知れぬものまでバラエティに富んだ格闘技の猛者たちが、その両拳に自らのゆずれぬ思いと雇い主の願いをのせて命がけのファイトに臨む!

……というシンプルに分かりやすいシチュエーションのもと、高度に肉感的でパワフルな人体表現が支えるド迫力の格闘シーンと二転三転してギリギリまで結果が読めない試合展開の数々で盛り上がったのが、小学館「裏サンデー」およびアプリ「マンガワン」で並行配信された『ケンガンアシュラ』(全27巻)である。

今回ピックアップする『ケンガンオメガ』はその続編として今年1月から始まった新シリーズで、初単行本が2月19日に発売されたばかり。

幕開けは拳願仕合の元締めとなる組織・拳願会の新会長を決めるトーナメントが終わった後、新しい体制になってしばらくの月日が流れた時点。劇的な幕引きをみせた前作主人公・十鬼蛇王馬(ときた おうま)に代わり、強さを求めて自分から拳願仕合の闘技者になることを望んだ若者・成島光我(なるしま こうが)の視点を主に進んでいく。

表の世界でいきがってきた光我が拳願仕合や裏格闘界についてゼロから学ぶ流れをとおすことで、前作と今作をつなぎつつ今作から読んでもとっつきやすいセットアップになっており、前作ファンも新規読者もワクワクさせる巧みな構成はさすがといえる。

序盤の見どころはなんといっても、かつて奇妙な縁で王馬の雇い主となった元一般人サラリーマンの山下一夫社長が、すっかり格の高いキャラクターになった様子だろう。

元々はうだつの上がらないオッサンで、冴えない会社員だった頃の見た目は残しながら、「拳願絶命トーナメント」ファイナリストを輩出した実績により元々持っていた資質が覚醒。名だたる大企業のトップたちから畏敬の視線を注がれるほどの存在に成りあがった姿がなんとも頼もしい。

温和な山下が内側に秘める人間としての凄みに気づけるかどうかで登場人物の器が表現されるなど、試金石ポジションがすっかり板についている。『ケンガンアシュラ』では何も知らず主人公にふりまわされる一般人視点を担当していた彼が、今度は新主人公を導く役割にまわった変化がしみじみと感慨深い。

また作品全体では、前作が拳願会というひとつの枠組みのなかで最強をかけた戦いだったのに対し、今回は他にもいくつか存在する裏格闘組織の間で火花散らす勢力図が前面に出てきたところが注目点となる。つまりプロレスでいう「団体」単位のせめぎあいが用意されているわけだ。

よりスケールアップした舞台仕立てを背景に、前作キャラの再登場と新キャラの投入で二倍美味しい『ケンガンオメガ』。今後がますます楽しみだ。

なお、関連情報としては、Netflixで『ケンガンアシュラ』アニメ版が今年の夏に配信されることが告知されている。マンガとアニメで新旧ケンガンシリーズをあわせて堪能できる、熱いサマーシーズンを期待しておこう。

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miyamo

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