2019.03.19

【インタビュー】『鬱ごはん』施川ユウキ「”細かな日常”に目を配れば、人生は成立する。」

鬱野は働いていないけど、それの何がダメなのだろう?

──鬱野くんは決してグルメではないと思うのですが、家でポテトチップスを揚げたり、パン切り包丁を買ったり、そういう点だけ見るとかなり食へのモチベーション高いですよね。

色んな確度から食に取り組む

施川:というか、けっこうミーハーなんですよね。時代時代で僕が影響受けたものが反映されているんだと思います。以前Twitterで牡蠣にタバスコかけるとうまいみたいな投稿がバズってたことがあって、実際に試してみたり。その話は3巻に収録されています。

牡蠣にタバスコかけるとうまいという話

ハンドスピナーもまわしてるしね。そういう意味では、一冊を通して時代の移り変わりも感じることもできると思います。

──時代が変わるという点では、リアルタイムで歳を重ねている鬱野くんのプライベートが気になっていて。当初は「就職浪人」という肩書きでしたが、31歳にもなると、ちょっとそれも苦しいですよね。

施川:そうなんですよ。

担当編集:肩書き問題はありますよね。2巻とか3巻とか、毎回鬱野のことをなんて表現しようと悩んでいます。最近だと「ネガティブな青年」とか。今の時代、「フリーター」という言葉も使わないし、「非正規」というのもこの作品のテイストを考えるとちょっとニュアンスが違う。

──そもそも作中でバイトをしている姿が目に見えて減った気がするのですが、鬱野くんの生計はどう成り立っているんですか?

施川:一応、漫画喫茶でバイトをしている設定です。ただ、その描写はあまり入れてない。

ぬるま湯なバイト先

担当編集:私から「鬱野くん、履歴書書いたりしないんですか?」や「就職活動をする気はあるの?」と聞くと、まるで鬱野くん自身かのように「そんなこと言うなよ!」って返されてしまう。

施川だって、辛いじゃないですか。あとで、あとで、と言い続けて描かずに今に至ります。そもそも鬱野くんに就活をする動機がないんですよね。今更感というか。むしろ、何があったら急に就職活動を始めるのだろう?

担当編集:鬱野くんが、ひとりでもんじゃ焼きを食べている最中に、バイト仲間が就職したことを知る回があるじゃないですか。私は勝手に、あのあたりで鬱野くんの心が折れたのかな、と思っているんですけど。

バイト仲間が就職したことを知る回

それまでは、人の話を盗み聞きしながら「(面接だったら)俺はこう答えるね」なんて考える場面もあった。

昔は人の会話に勝手に突っ込んだりしてた

施川:それは確かにあるかも。だから、彼は次のステージに立ったんですね。

──この作品において、次のステージは就職によって立つものではないんですね。

施川:むしろ、もうしなくていいと思う。これが彼の生き方だし、それの何が悪いんだろう、って。

──先生ご自身が、鬱野の生き方を悪くないと思っているんですよね。

施川:悪くない……うん、まあ、よくもないんですけどね。というか、人生において、いいとか悪いとかってなんだろう、ということなんです。

世の中の役に立ったり、愛すべき誰かと幸不幸を共にしたり、そういう「いい人生」だけが善だとしたら、救われない人が多すぎませんか。鬱野の9年間を読み返すと、僕にとっては全エピソードが「いい思い出」に見えるんですよ。彼自身そう感じてる気がします。つまり、いい人生です。そう解釈することは可能です。

鬱野は、何かを装うことを必要としていない人間

──鬱野くんって、常に憂鬱な思考ではあるんだけど、どこかちょっと楽しそうでもあるんですよね。それが羨ましいな、って。

施川:彼は、他人に人生をコントロールされてないんですよね。そういう意味では、すごく自由だと思う。

──他人の目はけっこう気にしているな、という印象ですが。

施川:他人の目を気にする、っていうのは、結局自分の中で起こることなので。自分で自分をそういう風にコントロールしているだけなんです。誰かにああしろこうしろって指示されるようなコントロールのされ方はしていない。

自分で自分の見られ方を定義する鬱野くん

──確かに、そうですね。会社に入っていないからこそ、という感じはします。

施川:だから、ある意味理想郷とも言えるのかもしれません。2巻まであったような、バイト仲間が就職していく、みたいな描写も3巻にはもう入ってこなくなりますし、だんだん世界が完成されつつあるというか。何かから目をふさぐことで。

──言葉だけ聞けば、どうしてもネガティブな印象をもたれそうなところです。

施川:うん、でもこれってダメなのかな。もちろん、社会的にはダメなのかもしれないけど、犯罪を犯してるわけじゃないしそういう生き方も多様性のひとつとして許容されてもいいんじゃないか、とは思うんですよね。

──確かに、誰かに迷惑をかけているわけでもないですしね。これから鬱野くんはどのような道を歩んで行くのでしょうか。

施川:変わらないと思いますよ。結局、人を変えたり成長させるものって立場でしかないと思うので。社会的な立ち位置とか、結婚したとか、子どもができたとか。だから、どこにも属さない鬱野はそのまま変わらずに生きていくんだと思います。ナイーブさみたいなものは、だんだんと薄れているような感じがあるけど。

自由に生きる、鬱野くん

──そういう意味では、精神的には少し大人になっている?

施川:うーん、大人というか。たとえば、3巻でクリスマスに一人でいることがまるで気にならなくなった、という話があるんですけど、それはこの人が「クリぼっち」的な言葉を使って自虐することがもう面白くないということに気づいているからだと思うんですよ。

クリスマスの鬱野くん

「リア充」とか「非リア」とか「非モテ」とか、そういう言葉が、そういうキャラを振る舞うことでしか成立しないものだとわかっている。コミュニケーションのための仕草でしかないと。鬱野は、何かを装うことを必要としていない人間です。

──確かに、自虐っぽいキャラでもないですしね。

施川:そもそも世間的にも、そういう自虐っぽいネタって言わなくなった気がするんですよね。「バレンタイン死ね」とか言ってる人、昔ほど見なくなったと思います。「中二病」とかもそうですけど、言葉として陳腐化したことで、そこにアイデンティティを見出すことが難しくなっている。僕自身、年齢のせいもあると思いますが、ネガティブなネタを以前より楽しめなくなってきた。

担当編集:その変化というのは、鬱野くんの行動にもけっこう現れてきていますよね。3巻はけっこうポジティブかつアクティブな彼の姿が見れるのが面白いんですよ。回転寿司屋の店員に隠れてみかんを食べようとしている、みたいな冒険的な様子があったり。

施川:まあ、それでもネガティブなんだけどね。ただ、動物園に行ったり、美術館に行ったり、行動的にはなってると思う。

動物園に行ったり

美術館に行ったり、ちょっとアクティブに。

──決して履歴書は書かないけれど。

施川:彼なりに人生を楽しみはじめているのかもしれない。

担当編集:鬱野くん、これからどうなっていっちゃうんでしょうね。

施川:だんだんと、仙人みたいな感じになっていくと思う。

あえてオチを削っている

──最後に、3巻の見どころを伺いたいです。

施川:第1話から9年経っているので、時代の移り変わりを感じられるのは面白いと思います。たとえば、最初の方って携帯すらあまり出てこなかったと思うんですよ。でも、最近はお店に入る前にググって評判をチェックしたりしている。そういう時代とともに変わる鬱野くんと、それでも変わらない彼の性質、みたいなところは見て欲しいです。

──ちなみに、9年も続いていると、ネタ切れとかになったりはしませんか。

施川ネタ……尽きてるんですよ。ただ、これはどの連載にも当てはまることですが、尽きてからが本当に描くべきものが現れると思っているので。

──それが3巻なんですね。

施川:そうですね。特に3巻は単なるネガティブなものよりも、叙情的な話が多いように思います。あとは、あんまりオチがついていないような話も割と描いています。僕は、コミックスが出るときに毎回かなり描き直すんですけど、今回はいくつかオチを削る方向で修正しているんです。

──それはなぜですか。

施川:オチが必ずあるって構造に対して、僕があまり面白く感じなくなったというのが大きいです。というのも、オチがバンバン決まる作品を読んでいると、オチを確認するために読んでいるような感覚になってしまうんです。ネタを成立させるためだけにキャラが動かされているように、結果的に見えてしまうというか。キャラが主でネタが従であるべきなのが逆転してしまうことを、オチたりオチなかったりさせることで防ぎたい。

それにわかりやすいオチばかり続けると、読者が別の意味を見出せなくなって作品世界が貧しくなると思っていて。それはこれに限らず他の作品もそういうことを意識して描いています。

──なるほど。

施川:あとは、読んでいて飽きないように、同じような表現は避けるようにしているんですけど……3巻を通して読んだら、鬱野めっちゃ「熱!熱!」って言ってるんですよね。お茶が熱いとか、たこ焼きが熱いとか、学べよって思いますよね……。今後気を付けます。

担当編集:最後に告知として、今年で施川ユウキ先生の画業20周年を記念して、モバイルバッテリーやスマホケースなどの『鬱ごはん』グッズ秋田書店オンラインストアに初登場しています。今年は他にも企画が色々進行中です! お楽しみに。

『鬱ごはん』グッズ イメージ

──本日はありがとうございました!

作品情報

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今回のインタビューの実施を記念して、施川ユウキ先生の直筆サイン入り『鬱ごはん』第1巻3名様にプレゼントいたします!

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園田 もなか

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