2019.03.14
【マンガレビュー】『アマゾネス・キス』意志強ナツ子【謎の「超感覚知覚能力」がテーマの自己啓発ヒューマンドラマ!】
『アマゾネス・キス』
キスなしで高次元へ
昔から宗教やネットビジネスなどの勧誘をよく受けた。なぜかはわからないが、おそらく付け入る隙だらけだったのだろう。ただ、私は根っからの臆病で、いつも誰かを疑ってかかるような人間だったので、そういう雰囲気を感じるたびにサッと逃げていた。むしろ、そういうものを盲目的に信じられる人たちが少し羨ましいとさえ思っていた。その目的がどうであれ、彼女ら彼らは明らかに夢中になって生きていた。それはどこか、猛烈に恋をしているときのような、怖いもの知らずの雰囲気をまとっていた。
意志強ナツ子先生の描く『アマゾネス・キス』は、キスなしで高次元にいくための「超感覚知覚能力」がテーマの自己啓発漫画だ。
主人公のOL・岡本はづきは、会社員をしながら占い師としても活動している。いずれ占い師で生計を立てたいと思う彼女は、会社員を片手間にやっているのでミスばかり。いくら上司に怒られても、何も響かない。
しかし、そんな彼女が唯一会社で執着していたのが、人気商品「ボタニカチョコ」の生みの親・天野だ。ボタニカチョコが大のお気に入りで、毎日ひとつ食べ、包装紙をスクラップするほど熱心な彼女は、ある日天野が会社をクビになると聞いて、驚き慌てる。どうやら、社内で不審な組織への勧誘をしていたことが問題視されていたようだ。そして、彼女は職場の同僚たちや掃除のおばさんが天野から勧誘をされる一方で、自分は一切されていないことに気づく。
もはや「尊敬」以上の感情を抱いた彼女は、半ば強引に天野に組織へと導いてもらうよう仕向ける。
そして彼女が迎え入れられたのは、「超感覚知覚トレーニングジム アマゾネス・キス」と呼ばれる組織だった。ここでは能力をもったトレーナーたちがお客さん相手に「マッサージ」をする。それはいわゆる性感マッサージのようなもので、ベッドの上でキスなし本番なしのサービスが行われる。
彼女はその日から天野の「お客さん」となった。職場の同僚たちはトレーナーとして引き入れられていたので、やはりそこには扱いの差がある。はづきには超感覚知覚はないと判断されたのだろうか。
一見すれば、荒唐無稽のインチキ自己啓発組織。しかし、作中ではそのインチキさにはまるで触れられない。むしろ、客として通うはづきは、イく寸前で止められ続けている中で感覚が鋭敏になったのか、占いの的中率が上がり、占い師として人気を集め始めたりする。
もはや、何がほんとで何が嘘かわからない。はづきを始め、誰しもが一心に何かを信じ邁進する姿は異様だ。終始、傾きかけた船のような不穏な予兆が立ち込める本作品だが、果たして彼らはどこにたどり着くのか。
©意志強ナツ子/リイド社