2019.05.27
【特別対談】『甘えたい日はそばにいて。』川井マコト ×『スロウスタート』篤見唯子 インタビュー!
『幸腹グラフィティ』の川井マコト先生が次に描いたのは、アンドロイドと人間が共に暮らす社会。
人間とほぼ同じ感情を持つアンドロイドの少女を主人公に据えることで、大切な相手に対して本当の意味でできる事や、逆説的に人間らしさとは何か?ということを読者に問いかけた意欲作『甘えたい日はそばにいて。』が、このたび完結を迎えました。
最終巻の単行本3巻発売を記念して、川井先生と、『スロウスタート』の作者・篤見唯子先生による対談をセッティング。
かわいい女の子たちの日常を描いた作品が多い「きらら」の中でも、きわどさやせつなさを含んだ作風を得意とする両先生。お互いの作品への愛とリスペクトが詰まったトークをお楽しみください!
川井マコト
かわい・まこと/漫画家、イラストレーター。2011年3月発売の「まんがタイムきららミラク vol.1」掲載の『にじげんめのうた』で商業誌デビュー。代表作は『幸腹グラフィティ』『甘えたい日はそばにいて。』。
篤見唯子
とくみ・ゆいこ/漫画家、イラストレーター。2013年7月号より「まんがタイムきらら」で『スロウスタート』連載開始。代表作は『瓶詰妖精』『本気求道』(マジキュー)など。
川井先生と、篤見先生の「きらら」デビューのきっかけ
川井マコト先生(以下、川井):対談のオファーをいただけたのはとても光栄なのですが、篤見先生とは実は今日が初対面なんですよ。ついさっきご挨拶したばかりで。
篤見唯子先生(以下、篤見):Twitterでは何度かリプライをさせて頂いたり、一方的に『甘そば』の感想をツイートしたりしてたんですが。特に最終回のときは、感情が昂ぶってとりとめのないことを書き散らしてしまってすみません……。
川井:とんでもないです、すごく嬉しかったです!
──川井先生は『スロウスタート』のアニメ制作現場レポートマンガも描かれていましたが、篤見先生は一緒ではなかったんですね。
川井:はい。あの時は直接A-1 Pictures(現:CloverWorks)さんのスタジオにお邪魔して取材をしてきたので、篤見先生にはお会いしませんでした。
篤見:レポートマンガがきらら本誌に載ることは担当さんから聞いていたんですけど、まさか川井先生に描いていただけるとは思ってなくて。その節はありがとうございました。
──篤見先生が川井先生の作品を初めて読んだのはいつですか?
篤見:『幸腹グラフィティ』の1巻が発売されたときに単行本を読ませていただきました。アニメ化される前からかなり話題になってましたよね。リョウちゃんたちの食べ方が色っぽい、みたいな。
川井:あのころは、きららとか萌え系のジャンルにグルメマンガがあまりなかったので、ビジュアル的に珍しかったかもしれないですね。
篤見:きららに限らず、グルメマンガでもあれだけ食事シーンを細かく描いた作品は少なかった気がします。『美味しんぼ』の富井副部長が「うまい!」って言うくらいで(笑)。
──たしかに、『幸腹グラフィティ』が話題になったことで、「食べる」ことに焦点を当てたマンガが増えた印象があります。
川井:どうなんでしょう……。『花のズボラ飯』など人気のあるグルメマンガもすでに連載されていましたし、グルメマンガブームが来る流れがもともとあって、『幸腹』はその波にタイミングよく乗れただけじゃないかと思っています。
篤見:謙遜されていますけど、私はやっぱり『幸腹』が食事女子の波を作ったと思いますよ。
──おふたりとも「まんがタイムきらら」グループを代表される作家さんですが、マンガ家歴としては篤見先生が先輩で、きらら創刊号でも描かれていますよね。
篤見:はい、別の雑誌で『瓶詰妖精』という作品を連載していたころにきららが創刊されて、うちでも描いてみませんかと芳文社さんに声をかけていただいたんです。
川井:創刊号って、たしか「まんがタイムきらら展」にも展示されていましたよね。自分は当時まだ小学生でしたし、そのころからずっとマンガ家を続けられていると考えるとすごい……。
篤見:いやいや。私なんか、単にダラダラ生きてきただけですよ(笑)。
──創刊号を最後にきららのお仕事から一旦離れて、約10年後に『スロウスタート』で復帰されるわけですが、どのような経緯があったんでしょうか。
篤見:同人活動のほうに夢中になってしまって、しばらく商業から遠ざかっていた時期がありました。そうこうしているうちにまた芳文社さんからご依頼をいただいたんですけど、私が創刊号でも描いていた話は全然されなくて。むしろ、だったらOKしようかなと。
──創刊号の作品の話をされるのはあまりお好きではない、ということでしょうか?
篤見:特にそういう訳ではなく、あくまで今の自分のマンガを見て評価してもらえたのがうれしかったんです。もし昔の経歴ありきのご依頼でしたら、お引き受けしていなかったと思います。
──川井先生は、2011年の「まんがタイムきららミラク」創刊号に名を連ねています。時期こそ違いますが、きらら系列誌の創刊号に参加されたという点では篤見先生と同じですね。
川井:そのころは大学生で、趣味でpixivに投稿していたイラストが当時の担当さんの目に留まってオファーをいただきました。私の場合、マンガ家としてデビューしたのがミラクになります。
篤見:昔からマンガも描かれていたんですか?
川井:一応描いてましたけど、ほとんどはイラストでしたね。
──仮にミラクのオファーがなかったら、大学卒業後はどんな仕事をしていたと思いますか?
川井:何かしら創作に関係する職業に就きたいとは思っていました。サークルの先輩に、大学に通いながらイラストレーターとして活動されていた方もいたので、作家業に憧れはありました。
価値観の違いから生まれる関係性を描くため、アンドロイドを登場させた
──あらためて、『甘えたい日はそばにいて。』完結おめでとうございます。『幸腹グラフィティ』とは違う作風で、最初に読んだとき驚きました。
川井:ありがとうございます(笑)。『幸腹』の後半あたりから次回作の構想は練っていて、アンドロイドが登場する話を描きたいと思っていました。
──「アンドロイド」という題材に思い入れがあったんでしょうか。SFものがお好きとか。
川井:恥ずかしながら、SFにはそこまで詳しくないんです。正確には、キャラクターたちの身分や価値観の違いから生まれる関係性を描きたくて、それなら人間じゃないキャラクターを出したほうがいいと思って「アンドロイド」という設定に行き着いた気がします。
──アンドロイドが登場する物語を描くにあたって、参考にされた作品はありますか?
川井:先入観を持たないようにするために、アンドロイドが登場する作品はあえてあまり読まないようにして、むしろ『恋は雨上がりのように』など、立場の違う2人がおりなす人間ドラマが描かれた作品をいくつか読ませていただきました。
──初期設定と、連載が決まったあとの設定で変わった部分はありますか?
川井:見た目も結構変わりましたが、一番変わったのは性格でしょうか。ひなげしと楓の性格、今と逆だったんですよ。
──ひなげしのほうがアンドロイドっぽかったと。
川井:それこそ、クールでロボットらしいキャラクターでしたね。その設定案やネームを担当さんに見せたら「川井先生のマンガはヒロインが表情豊かなほうがいい」とアドバイスをいただいて、表情がコロコロ変わる女の子になりました。
その代わり、楓がアンドロイドっぽくなってしまいました(笑)。最初はもっと無邪気でわたわたする感じで、年ごろの男子高校生らしい子だったんですけど。
篤見:変わったといえば、『幸腹』のころと比べてもどんどんコマの密度が高くなっていって、描くの大変だろうなと思っていました。
川井:全体的にシリアスな作品なので、その展開とのバランスが取れる絵柄にしようと試行錯誤しているうちに線が増えていったんだと思います。本当はもっとシンプルに見やすくしたいんですけど、私の場合、人様にお見せできるレベルにするためには描き込むしかなくて……。
──たしかに、4コマでここまで緻密に描き込まれている作品は珍しいと思います。ストーリーマンガではなく、4コママンガを描く上で意識していることはあったりしますか?
川井:『幸腹』のときはなるべくギャグオチを入れてくださいと担当さんに言われていたので、できるだけ入れるようにしていました。一方、『甘そば』も基本的なスタンスは同じですが、担当さんも私も必ずしもギャグオチにはこだわらないようになりました。
篤見:『甘そば』で下手にオチをつけると雰囲気壊しますもんね。
川井:そうなんですよね。『甘そば』はもともとシリアスなストーリー4コマを描かないかとご提案頂いての連載なのですが、ストーリーとオチのバランスをどうするべきかは最後までずっと悩んでいて、今も答えは出ないままです。
篤見:『スロウスタート』もストーリー4コマなので、4コマ毎にオチってつけられるんだろうかと悩んでいました。そうしたら、初代の担当さんに「オチは”かわいい”でいいです」って言われて。それでだいぶ肩の荷が降りた気がします。
川井:オチは”かわいい”……なるほど。きららでお仕事をするようになってから色々な4コマを読んでオチのつけかたを勉強したのですが、中でも『スロウスタート』は独特だなと感じてました。読んだあとに、たしかに「かわいいな」って印象が残るんですよね。
©川井マコト/芳文社, ©篤見唯子/芳文社
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