2019.08.17
マジメ男子が不良おねえさんに“サボり”で翻弄される、おねショタどきどきコメディ!『少年、ちょっとサボってこ?』赤城あさひと【おすすめ漫画】
『少年、ちょっとサボってこ?』
本日は、先週8月8日に単行本第1巻が発売されたばかりのフレッシュな作品をピックアップ。講談社「コミックDAYS」で連載中の『少年、ちょっとサボってこ?』を紹介しよう。
主人公・二宮くんは勉強熱心な中学生。学校との行き帰りでもずっと歩きながら教科書を開いて予習復習に余念がない。苗字が同じこともあいまって二宮金次郎の像を連想させる男の子である。
そんな彼の通学路には、要注意人物のひそむ危険地帯がある。そこはとある会社の建物すぐそば。待ち受けているのはひとりの若い女性だ。
「やぁ 少年」と気さくに声をかけてくる、謎のOL。会社の前でいつも仕事をほっぽり出して勝手な休憩をとっており、自分の時間つぶしに二宮くんを巻き込んで勉強をサボらせようとする。悪いオトナのひとだ。
さあ教科書を閉じよう。お菓子を口に入れよう。ストレッチして身体をほぐそう。居眠りしよう。かわいい動物を愛でよう……。なんとも他愛ない、サボるためだけの時間の使い方の数々が、勤勉な少年に危険な誘惑をしかけてくる。
自分にはサボりなんてしてる暇はない、ダラダラしていられない! と二宮くんはいつも必死に抵抗するが、謎のOLさんは攻め手をゆるめない。むしろそういう少年だからこそ、と言わんばかりにますます手練手管とノリのよさをいかして一時の楽しいサボりをすすめてくる。そして至近距離にぐいぐい詰めてきては、サボり魔を極めた人間ならではの説諭を垂れるのだ。
「やる気って風船みたいなモノだし? あんまり力入れて膨らますとー ばーんって 破裂しちゃっておーしまい 大事なのはバランスだよ」
彼女の“サボり格言”の妖しい説得力に魅せられ、二宮くんは今日もうっかり勉強の手を止めてしまうのだった……。
という具合に、マジメ中学生男子が不良OLおねえさんに“サボり”で篭絡されるおねショタどきどきシチュエーションコメディとなっている。
作者の赤城あさひと先生は「COMIC快楽天ビースト」読者によく知られる成人向マンガ家でもあり、いけないけどキモチイイことに誘われる官能の図を、全年齢作品の日常的な題材へひじょうに上手いこと転用した趣が楽しめる(逆にいうと毎回めっちゃエロマンガの導入っぽいとも……?)。
絶妙にいいのが、サボりという題材を体現する謎のOLさんのキャラ立て配置だ。この作品は広い意味での師弟ものにあたり、おねえさんは“悪い師匠(指導者、メンター)”の様式を備えている。
いい師匠ならば、教えたことがストレートに役立ち、成長と利益をもたらす導きとなる。しかし悪い師匠はダメなオトナの姿で堕落と悪徳を教え、倫理の抜け道を示し、一見すれば足を引っ張るようなこともする。悪い師匠は、ある場合は否定して乗り越えるべき対象だが、また別の場合にはその悪い教えこそがまわりまわって大事な核心をついて、弟子に清濁あわせた奥深い学びを授けることがある。
「おいしいもの食べて 楽しいことして きもちよければ それでいいじゃん?」
サボってでも今を楽しもう、というおねえさんのすすめは刹那的で、社会規範上ではあまり正しくない。それだけでやっていける人生は滅多にないだろう。実際おねえさんも後輩OLにみつかって仕事に引きずり戻されたりしているのだから。
しかし、彼女のサボり哲学は九割間違っていても一理は確実にある。そして、間違っていようが自分に嘘をついていない一点において、誠実な生き方をしているという逆説が立ち上がる。
一方、マジメな二宮少年は、たくさん勉強するため時間を無駄にしてはいけないという規範にこだわるせいで“勉強以外のことができる時間を無駄にしている”とも言える。ゆえに九割正しくても一割の、それでいて小さくない濁りが青春に生じている。
不良が真摯で、マジメが不純。そんな矛盾した2人が交わってサボりという劇薬が投下され、どうなるか。少年は適度なリフレッシュを挟んだことで、結果的に勉強もはかどるのだ!(第2話参照)
このまわりまわった効果が、“悪い師匠”を担うキャラクターの味わい深い面白さである。
そういう本作の趣向は学校の勉強にいそしむ若者だけでなく、勤めに身を削る社会人にもよく刺さる。何日も徹夜ぶっとおしで仕事し続けるのは作業量を稼げるようでいて、実際は疲れから逆に効率が落ちるものだ。必要な休みを挟んでこそ最大のパフォーマンスが発揮されるのは、世代も分野もとわない道理だろう。
言うなれば『吼えろペン』の有名なフレーズ「あえて……寝るっ!!」の「あえて」の大事さを教えてくれるマンガなのである。
©赤城あさひと/講談社