2020.05.09
ロリっ子の姿で不老長寿に生きる魔女と、すくすく立派に育ちすぎた人間の子供のファンタジー系ファミリーコメディ!『でこぼこ魔女の親子事情』 ピロヤ【おすすめ漫画】
『でこぼこ魔女の親子事情』
昔々、森のなかでひとり暮らししている魔女がいた。
ある日のこと、魔女は森に捨てられた人間の赤ん坊を見つけ、不憫に思って己の手で育てることにした。
時が流れて16年後。
とんがり帽子をかぶり、豊満な肢体を黒衣に包んだ妖しい色気を放つ女が街で買い物をしている。そして彼女のそばには、頭ひとつぶん以上は小柄な、気弱そうな女の子が連れだっていた。
ふたりを見た店主はふと訊ね、黒衣の女がそれに答える。
「魔女様とお弟子さんですかな?」
「そうです」
そう、これは魔女と、その娘にして弟子でもある人間の少女の物語。
──ただし。実はいま「そうです」と答えたほうが娘なのである……!
というわけで、本日ご紹介するのはロリっ子の姿で不老長寿に生きる魔女と、すくすく立派に育ちすぎた人間の子供という、体格差逆転の母娘を描くファンタジー系ファミリーコメディ。題してその通り『でこぼこ魔女の親子事情』である。
本作のポイントは、大きくなっても娘は娘、小さくても母は母として強調してあるところ。
とくにビオラ(16歳)は立派な見かけに反して性格は超・甘えん坊なマザコン女児キャラになっており、目が離せない。
アダルティな面立ちに無邪気な笑顔を浮かべて「ママ、ママ」となついたり泣きわめいてダダをこねたりする図は見かけ上の幼児退行プレイのようでもあり、なんというかこう、興奮してしまい……いやすみません今のなし。
ともかく、ママとの体格ギャップと、さらに本人の見かけと言動のギャップによって場をにぎやかす二重の面白みを帯びたキャラなのだ。
作品全体のスタイルでいえば、わんぱくな児童と周囲の大人のドタバタしたかかわりを描く日常ものに類するのだが、大御所『クレヨンしんちゃん』をはじめ現実ベースの作品が多いところにファンタジー設定を噛ませて上手く料理してある。
例えば「使い魔がほしい」と召喚獣を呼び出す回は、子供が「ペットを飼いたい」とゴネる図の互換になっており、読者によってなじみのあるシチュに魔法という要素がスパイスとなって楽しませてくる(召喚された“フェニックス”のインパクトある姿をぜひ見てほしい)。
一方、ママとなる魔女・アリッサ(223歳)もまた、子供のような見かけが逆に親として奮闘する姿を際立たせている。度を越したマザコンモンスターな娘にふりまわされながらも惜しみない愛情を注ぐさまは、可笑しさと応援したさがあいまった微笑ましい情感いっぱいだ。
とりわけ、回想で時折挟まれるビオラの赤子時代のエピソードには、育児・家事のいい話として印象に残るものがある。なかでも序盤、慣れない子育てに戸惑うアリッサに対して屈強な肉体と精神を誇るママ友・リラさんの贈る励ましの数々は必見。
育児書に影響されたアリッサが「母乳で育てないと愛情が足りないのでは?」と悩んでいれば、
「しゃらくせぇー!!(育児書を素手で引き裂く) そんな胡散臭い本読んでるヒマがあったら歌のひとつでも歌ってやりな! 母乳で育とうがミルクで育とうが血は流れるし腹も減るんだよ!」
また、育児に追われて家事に手が回らず、魔法を使って用事を済ませる自分に「楽してばっかりのダメ人間なのでは」と罪悪感を抱けば、
「家事は楽してなんぼだよ! 私だって料理が面倒で小麦を直接食べたりするからね!」(小麦粉を袋から口にザーッと注ぎ込む)
とまあ、頼もしいこと。
お母さんにも子供にも、失格や合格なんてない。間違ったって、手間を惜しんだって、見かけがでこぼこだって、別にいいじゃないか……!
ファンタジー要素やすごい絵ヅラで笑わせつつも、現実で育児に悩ましくなっている親御さんへのエールも入っており、なんとも感心な作品である。
さて、以下は余談。本作のなりたちについて言い添えておこう。
2018年春、Twitter上で魔女×子供(成長前後)のカップリング創作を試みるためのハッシュタグ「#魔女集会で会いましょう」が作られ、多くの絵描き・文字書きが参加して盛り上がりを見せた。
そのタグでピロヤ氏が発表したのが「義母さまは魔女」というイラスト連作で、それをベースにしたのが同年夏に「COMICメテオ」で掲載された読切マンガ版。さらにそれが連載へ昇格したのが本作、という次第だ。
SNSで発表したものが商業作品化という作品は今やよくあるが、ハッシュタグのお祭りが出発点なのは面白い。
©ピロヤ/フレックスコミックス