2020.07.03
【インタビュー】『やんちゃギャルの安城さん』加藤雄一「頑張る人を応援する優しい存在として、安城さんを描いている」
真面目でクラスの中でも目立たない瀬戸くんには、イケてるギャルの安城さんがなぜかいちいちエロく絡んでくる──。
いつもギリギリでドキドキする思春期ぴちぴちラブコメディ『やんちゃギャルの安城さん』が、『第4回みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞』にて入賞しました。
その記念として、作者である加藤雄一先生にインタビューを実施。「日々の努力をしている人や、真面目に取り組む人を応援する女の子」として誕生した優しいギャル・安城アンナの魅力を深堀りしてお届けします!
安城さんがセクシーな分、パンツを描かないことでバランスを取る
──2020年度TSUTAYAコミック大賞でのトップ10に入賞されました。今の率直なお気持ちをお聞かせください。
加藤:なかなかこういう賞に選ばれることもないので、とても嬉しく光栄に感じています。
第4回「みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞」で8位を頂きました!
応援してくださった皆様のおかげです!ありがとうございます!!https://t.co/WBht5WPDc6#やんちゃギャルの安城さん pic.twitter.com/ZDURQJFrX3— 加藤雄一@やんちゃギャルの安城さん6巻7/13発売 (@kotan1988) June 17, 2020
──投票していただいた方のコメントを一部抜粋しながらお話を伺います。まずは、「安城さんがとにかくかわいいのでギャル好きじゃなくても一度読んでみてほしい。出会えてよかった作品の一つ」という声が。
加藤:「こういう女の子が好き」って気持ちで安城さんを可愛く描いていますので、それが伝わって、共感していただいて嬉しいです。
──こういう感想もいただきました。「ギャル×真面目くんのシチュエーションは最高。魅力あるギャル安城さんと真面目すぎる瀬戸くんの友達以上恋人未満な関係が毎回ドキドキする!」
加藤:もともと「ギャルx真面目くん」の組み合わせが好きで、そこが読者さんに響いていてホッとしました。
コメディだけど恋愛もしっかり描くことは意識していて、堅くならないようにエッチな要素も入れながら、恋愛を描く時は真正面から描こうって決めています。
──さらに投票コメントです。「パンチラ無しでここまで魅せてくれる技量も凄い。そして、何よりギャップ萌えがズバズバ突き刺さります」という感想もありましたが、パンツが見えそうで見えないことには、こだわりがあるんでしょうか?
加藤:はい、こだわっています。見えない方がもっと見たくなるので、興味を引くことにも繋がって、よりエロいと思うんですよ。
それにパンツが見えちゃうことで、引いてしまう読者さんも一定数いらっしゃるんだろうな、とも思っていて……まあブラは思いっきり見えているんですけど(笑)。
安城さんがセクシーだったりエロかったりする分、逆にパンツを描かないことで、バランスを取っています。
──確かに、パンチラがない代わりに胸の谷間はかなりチラチラしています(笑)
加藤:安城さんにとって、胸の谷間やブラを見せることに恥ずかしさはなくて、見せていいものを見せているだけって感覚です。3巻でブラを安城さんが見せるシーンがあったんですけど、本人としてはむしろ「可愛い下着だから見てほしい」くらいに思ってるんじゃないかなって。
──ペロッとほっぺを舐めたりするセクシーな仕草も、先生なりのフェチズムが反映されているんでしょうか?
加藤:この頬を舐めるシーンは、瀬戸くんとの距離を縮めるためのスキンシップです。
全部がフェチズムではないんですが、ただ脚が見えているシーンに関しては100%フェチズムだと言い切れます(笑)。脚を綺麗に描きたくって、いかに美しく見せるかってことはいつも気にしてます。
「好きなことは好き、嫌いなものは嫌い」自己主張がはっきりしているのがギャルの魅力
──こちらも投票コメントです。「絵柄もとても綺麗で、終始、安城さんと瀬戸くんに胸きゅんしてしまう。ギャルへの偏見を一気に覆す作品でした!」
加藤:ギャルへの偏見(笑)。どういう偏見を持っていて、どう覆ったんだろう? もしも「ギャル=怖い」っていう印象をお持ちだったとしたら、優しくて強いギャルを描くことで覆ったのかもしれません。
──ギャルの魅力はどこだと思いますか?
加藤:やっぱり隠さないところかなって思います。テレビに出演しているギャルな人も、本音をズバズバ言いますよね。好きなことは好き、嫌いなものは嫌い。しっかりした基準を持っていて、口にできるのがギャルの魅力だと感じます。
隠し事をされるのがイヤなんで、言ってくれた方がすっきりするし、言葉にしてくれる人の方が信用できるんです。
──安城さんもそのタイプだと感じます。
加藤:自分の意見をきっちり言える、隠さない、自分を偽らない人ってカッコいいじゃないですか。自己主張ができない真面目な男の子を、はっきり物を言える女の子が救ってくれたら、真面目くんが変われるきっかけになるんじゃないかって。
そういうマンガをTwitterに描いていたら、今の担当編集さんにお声かけいただいて連載が決まりました。
「こういう学校生活だったらよかった」願望が詰まっている
──優しくて、ちょっとだけSっ気のある塩梅が絶妙です。こんな風に加藤先生もいじられたい願望があるんでしょうか?
加藤:あります、あるから描いてるんです! このマンガに描いてあることのほとんどは、僕がやられたいことです(笑)。学生の頃に「こういう学校生活だったらなー」って願望が入ってます。
──いじりが強すぎて嫌な子に見えないよう、バランス調整は意識してらっしゃるんでしょうか?
加藤:「みんなに優しい」のが大前提なので、瀬戸くんが嫌なレベルでいじっちゃったら優しくなくなってしまいます。だから瀬戸くんが不快に思わないいじりを、特に1巻の頃は意識して描いていました。
4巻では、安城さんが「もしかしたら、自分のこの感じは瀬戸を嫌がらせてるのかもしれない」って部分を描きました。そこはちゃんと考えている子、優しい子なんです。
──外見についてはどうデザインしていったのでしょうか?
加藤:力強さが欲しくて、左側を見せるような髪型にしています。それが特徴的だと指摘されることが多いですね。最初は左側だけ刈り上げているデザインもあったんですが、ちょっと怖すぎだなってボツになりました(笑)
──そこは行き過ぎたと(笑)
加藤:あと右目を隠すのは、個人的に片目が隠れてるキャラが好きって理由です。個人的な経験なんですが、片目が隠れているキャラクターって商業マンガのメインヒロインではNGが出ることが多かったんです。でも、Twitterに上げるマンガくらいは趣味全開で描こうって決めていたので、今のデザインになっています。
──豊田さんも右が隠れ気味で、先生の好みが反映されているんですか。
加藤:そうですね。あと漫画の技法として、感情の表現がしやすいって利点があります。真剣な表情やショックを受けた時、視点を移せば目が隠れるのも漫画家的には好きなポイントですね。
真面目に努力している人を評価して、理解してくれる安城さん
──なるほど、自然に顔に影が作られますからね。瀬戸くんの外見についてはどうでしょう。
加藤:瀬戸をカッコよく描いちゃうとダメだなって気をつけています。
──えっ!? 主人公なのに、ですか?
加藤:このマンガのテーマがブレちゃうんで、見た目をできるだけ「普通の真面目な人」くらいで留めることを心がけています。
どうしてもマンガの絵って、普通に描くだけで、平均よりも上のイケメン寄りになっちゃうんですよね。
──メガネがなくてノーマルの髪型という無個性でも、カッコよく見えちゃうのがマンガの特性だと。
加藤:なので瀬戸くんはちょっと下に、髪型や服装にこだわらない、外見への意識があまり高くない子にしてます(笑)
──でもカップルコンテストの時、瀬戸は隠れ美形っぽかったんですが。
加藤:あれは安城さんがセットしたから、ちょっと上に見えているだけなんです。よくネット動画なんかで、美容師が冴えない男子をセットしてイケメンにチェンジさせる動画がありますが、要はああいうことで。
壇上に上がった瀬戸を評して、「なんかクールでかっこよくない?」ってモブと、「そう?」って疑問系のモブがいるのはそういうことで、見た目が少し上がっただけなんです。
──隠れイケメンではなかったんですね。
加藤:本人が美形だからではなく、安城さんの腕前が凄すぎるんです(笑)。逆に言うと、誰でも美容室とかに行って本気でスタイリングをやってもらったら変われるぜ! とも思っています。
──固い生き方をしている瀬戸くんに対して、安城さんが救いの存在になっている関係性について伺いたいです。
加藤:女性が救いというよりは、真面目に頑張ってる人に対して優しい人。「ちゃんと頑張ってるね」って認めてくれる人が側にいてほしい、という気持ちで安城アンナを描いています。今の世の中、真面目に頑張るだけでは評価されない現実があるじゃないですか。
──社会では努力が報われないことも多いです。
加藤:努力しても本番でうまくいかなかったらダメって厳しい現実は、瀬戸が受験に失敗したエピソードでも描いているんですが。現実は成果主義なので「真面目に頑張った」「真剣に生きてきた」、そういう当たり前のようで実はすごいことが、あまり評価されません。
そこを見てくれて、「この人は真面目にやってる」「この人ちゃんと生きてる、すごい」って理解してくれる人がいてほしい。そんな理想が反映されています。
──男女間に限らない話ですね。
加藤:そうですね。だから仮に安城さんが男だったとしても、瀬戸くんの側にいてほしい存在になっています。
©︎加藤雄一/少年画報社
「安城さんが実際に目の前にいる」ような気持ちになってほしいNEXT
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