『ホンノウスイッチ』

KUJIRA先生の『ホンノウスイッチ』の第３巻が発売されました。大人の恋愛を描いてる作品なんですけど、とにかく甘くて甘くて甘いです。それではさっそくあらすじをご紹介……

ゲームプランナーの星小和（26）と、秋山聖は、実家がお隣のただの幼なじみ。……のはずが、失恋をきっかけにシてしまう！ 聖のまっすぐな「好きだ」という言葉に小和はドキドキが止まらなくて……!? 甘々、じれじれ、ちょっとHな、オトナ２人の脱・幼なじみじれキュンLOVEストーリー。

エッチからはじまるピュアラブストーリー

KUJIRA先生が描く恋愛モノというと、ちょっと生々しさを感じさせるエロと、何はともあれとにかくビターで、その奥にちょっとだけほんのりとした甘みがあるという印象があるのですが、冒頭でも述べた通り本作は苦さとは無縁。とにかく甘いです。ホンノウスイッチというタイトルや、のっけから幼なじみとお酒の勢いでエッチしちゃうって流れから、かなりエロに振った作品なのかと思っていたのですが、いやはや、メチャクチャ純愛ですよ、これ。

最初こそ失恋きっかけ、お酒が入っている中でなし崩し的にセックス……という爛れた流れではあるのですが、実は幼なじみの聖はずっと小和のことを密かに想っており、勇気を振り絞ってこのチャンスに懸けたという背景が。

圧倒的承認

そんな健気に想いを重ねる聖とは対照的に、小和は全く聖のことを異性として意識していません。エッチをしてしまったのも、一夜の過ち……そのぐらいの意識だったのに、その夜をきっかけに聖が好意を隠すことなく露にするようになり、小和は戸惑います。

改めてデートからはじめようと聖から誘われるも、いきなりすっぽかしたりと、すぐには気持ちの整理ができない様子。色々と理由はあるのですが、小和の行動はやや身勝手に映ります。けれど聖は、そんな小和を咎めることなく、最大限の理解を示して受け入れてくれるんですよ。元々とても心優しいのだと思うのですが、それに加えて、幼なじみとして積み重ねた時間があるからこそ与えられる、最大限の承認がそこにあるのです。

巻を重ねるごとに徐々に距離を縮めていくわけですが、一貫しているのは、小和の揺れ動く心を、聖は全てを包み込み受け入れるという圧倒的な包容力。これがもう無尽蔵に供給されるわけですから、ずーっと甘い。マンガですから、当然アクシデントやすれ違いが起きたりもするのですが、聖が安定しすぎてて、アクシデントがハラハラの要素にならないというか、その全てが、後々描かれるであろう甘いシーンへ向けた助走に映る、この幸福感たらありません。

エッチなのに社会人なのに初恋でもないのにピュア

社会人同士の恋愛、大人の恋愛でこれだけピュアな甘さを描ける作品、あまり見たことありません。

ある程度年齢を重ねると打算的になったり、だらしなくなったりして、キラキラ感が失われがちだったり、あえて甘さを出そうとしても人工甘味料のような不自然な甘さになってしまったり……。しかも本作の場合、普通にエッチするし、互いに恋愛未経験というわけでもない、20代中盤。

カタログスペックだけであれば、ピュアに甘くなる要素が無いんですよ。それが本作の場合、幼なじみ同士という一点でもってそれを実現してしまう。

一切恋愛対象として見ていなかった幼なじみを、改めて意識的に恋愛対象として見るという、どこか初恋のやり直しっぽい雰囲気だったり、社会人の恋愛でありながら、ときおり挟まれる学生時代の回想によって、学生の恋愛っぽい雰囲気も醸し出しているというか。結婚だなんだといった余計なしがらみもなく、純粋に恋愛を楽しめる環境にあるのが、ピュアさを加速させる要素になっているのかな、と思います。

何はともあれとにかく甘くて幸福感が凄いので、ハッピーな恋愛ものがお好きな方はチェックしない手はありません。KUJIRA先生の新境地とも言える本作『ホンノウスイッチ』、私、大好きです。

試し読みはコチラ！

©KUJIRA/講談社