2020.09.22
仲良く喧嘩する「同じ男のことが好き」な女の子同士の関係性は最高『あの鐘を鳴らすのは少なくともおまえじゃない』アサダニッキ【おすすめ漫画】
『あの鐘を鳴らすのは少なくともおまえじゃない』
憎らしいけど、気になって仕方がない。利害は一致しないけど、あなたの気持ちは私がいちばんよく分かる。
先日、第2巻が発売されたアサダニッキ先生の『あの鐘を鳴らすのは少なくともおまえじゃない』は、そんなふたりの女の子のおはなしです。
恋敵になったふたりの女の子。けれどやがて……?
大橋チカは高校一年生。彼女は、生物教師の西目に恋をしています。生徒想いでイケメン、だけどパッと見は地味で、その魅力が分かる人は少ない西目先生。
恋のライバルは周囲にいない。そう思っていたチカですが、ある日、気づいてしまいます。美人で誰にでも優しいクラスメイト、猪乃原愛矢もまた、西目先生に恋をしていることを!
才色兼備で男子にはモテモテ、おまけに西目先生が顧問をしている美化委員に所属している猪乃原愛矢。このままでは勝ち目がないと感じたチカは「どんな卑怯な手を使っても猪乃原を蹴落とそう」と決意するのでした。
しかしこの猪乃原愛矢、実はとんだ猫かぶり。一度チカに出し抜かれて以降、計算高く、クチの悪い本性を表します。
それからというもの、ふたりは会うたびに互いを口汚く罵り合い、取っ組み合い、どつき合いながら、相手よりも上手く西目先生の気を引こうと奮闘するように。けれどやがて、ふたりの間には奇妙な絆も芽生えていって……?
楽しくてかわいいふたりの掛け合い
チカと愛矢が喧嘩をする様子はコミカルな感じで描かれているのですが、これがとってもかわいい。相手を威嚇して悪い顔をしたり、先生への想いを募らせて恋する乙女の顔をしたり、図星を突かれて怯んだり。コロコロ変わる表情とテンポの良い掛け合いは、何度見ても飽きません。
それでいて、同じ人を好きになった者同士だから、西目先生の話題になると思わず相手に共感してしまったり。君たちほんとはめっちゃ仲良くない?
第1巻の個人的なハイライトは、弟に付き添って映画を観に来たチカが、近くの座席で偶然西目先生と鉢合わせる展開。休日に好きな映画を観ているときの素の表情の西目先生にチカはときめくのですが、直後に頭をよぎったのは「猪乃原愛矢に自慢したい」ということ。
せっかく好きな人と映画を観ているのに、「猪乃原に見せたい、会って伝えたい」といったことばかり考えてしまう自分にチカは混乱。彼女にとって、西目先生をめぐって恋敵とやり合うのが、いかに満ち足りた時間であるかがよく分かるひと幕でした。そしてきっとそれは、愛矢にとっても同じなんじゃないかと思います。
新たな刺客の参戦や、記憶喪失……前途多難な恋路の行方は?
ふたりの恋路を邪魔するのは、お互いの存在ばかりではありません。西目先生争奪戦に新たな刺客が参戦することもあれば、西目先生のあらぬ悪評が広まり、その出どころを突き止めなければいけない、なんてことも。
自分と西目先生との幸せな未来のため、時としてチカと愛矢は共闘関係を結びます。恋は大して進展しない一方で、ふたりのチームワークばかりがどんどん良くなっていっているような……。
第2巻の見どころは、猪乃原愛矢が記憶喪失になってしまうエピソード。チカと西目先生のことだけピンポイントに記憶を失った愛矢に対して、チカがどのように振る舞うのか、ぜひ注目してみてほしいです。
本作はいろいろな楽しみ方ができる作品になっています。チカのことが好きなサッカー部の一色くんの想いの行方も気になりますし、もちろん西目先生への恋が今後どのように展開されていくのかも楽しみです。
でも万が一、誰かと誰かが恋人同士になったとしても、チカと愛矢みたいな微笑ましくて楽しい関係性にはならないような気がします。ふたりも、自分が誰といるときいちばん楽しいのか、薄々気づいてるんじゃないかな……と個人的には思ってしまうのですが、いかがでしょう?
仲良く喧嘩するふたりのこと、これからもずっと見ていたいなぁ!
©アサダニッキ/秋田書店