2020.11.06
シェアハウスで一つ屋根の下に暮らす、世代の異なった迷えるオトナ3人といとしい猫が織りなすヒューマンドラマ。『三日月とネコ』ウオズミアミ【おすすめ漫画】
『三日月とネコ』
ウオズミアミ先生の『三日月とネコ』の第1巻が発売されました。
書店で働く40代おひとり様女性の灯は、30代女医の鹿乃子、20代のインテリアショップ勤務の男性・仁、みんなの愛猫のミカヅキと仲良く暮らしている。
熊本でごく普通の人生を歩んできた灯にとって、人生で一番普通ではない生活をしているものの、その生活はとても楽しくて……。三日月のように満ちていく途中の、迷えるオトナ3人といとしい猫の共同生活物語。
猫マンガかシェアハウスマンガか
元々「マンガハック」というWeb媒体で連載され、徳間書店から単行本が発売されていたのですが、「anan」の猫マンガ大賞を受賞したことをきかっけに集英社「ココハナ」に移籍(というか、続きを描くことになった)という本作。
猫マンガ大賞受賞ということは、さぞかし猫さまに癒され、猫さまを愛で、猫さま万歳な内容なんだろうなと思っていたのですが、読んでみた感想としては猫成分はたっぷりで物語における軸であることは間違いないものの、本質は、猫を通して自分や他人を見つめる「ヒューマンドラマ」だなということ。
主人公の灯は、猫と、猫好きの同居人との生活を堪能しているおひとり様。40歳独身でもこれといった焦りはないけれど、未だに大人になりきれていない自覚があり、ふと思いを巡らせる時があります。
そんな彼女と同居しているのが、とっても静かで大人っぽいレズビアンで30代の精神科医・鹿乃子と、一番年下ながらオネエでガンガン物言うインテリアショップ勤務の仁。猫好きという共通点の中集まった3人は、それぞれに長所と欠点を抱えていて、時に思い悩みながらも、この暮らしを楽しんでいます。
猫だけじゃない色々な要素
本作、猫のいる暮らしを描いているのですが、同時にそれぞれ世代の異なる男女が一つ屋根の下に暮らすという、シェアハウスものとしての側面もあり、また先述の通り同居人はレズビアンとオネエで、LGBT的な要素も入ってくる。
さらにはココハナらしく、40代おひとり様ゆえの、行く先の不透明さや田舎に暮らす両親の小言など、この年齢ならではの悩みみたいなものも物語に落とし込まれていて、要するに猫だけじゃなく色んな要素が詰め込まれているんですよね。
それらが組み合わさって、下手するととんでもなくガチャガチャした物語に仕上がりそうな雰囲気すらあるのですが、これらのつながりを猫が媒介し、悩みも猫が癒してくれるし、猫によって物語も動いていく。
猫がいるから自然と家に集うようになるし、集えば会話が生まれ、思い悩んでいることを吐き出したり、時にすれ違いを生んだりもする。さらに新たな猫の登場が、同居の在り方を変えるダイナミズムにもなる。猫すごい。
人と人のつながりが素敵
素敵なのは、直面した悩みに対して、猫が癒してくれるからOKとはならず、同居人同士が互いをリスペクトしあいながら、それぞれ認め合って、きちんと対話で解決をしていくところ。恋人でも家族でもないからこそ、変に相手に寄りかかりすぎることなく、自立しているので、発せられる言葉も地に足着いている感じがして心地よいんですよね。
猫という面が推し出されていますが、普通に大人の同居ものとしても素晴らしい一作。是非とも色々な人に読んでもらいたい物語です。
©ウオズミアミ/集英社