2020.12.05
元・凄腕冒険者の老人ばかりを入居させた“ファンタジー世界の老人ホーム”「ばるはら荘」を舞台に繰り広げられる、介護コメディ!『ファンタジー老人ホームばるはら荘』 岡村アユム【おすすめ漫画】
『ファンタジー老人ホームばるはら荘』
剣と魔法のファンタジー世界で、魔王を倒して世界を救った冒険者たち。人々は彼ら彼女らを、英雄と讃える。しかし人が人である以上、みな年を取り、一線を退く時がやってくる。
そんな元・凄腕冒険者の老人ばかりを入居させた施設が本作の舞台。その名を「ばるはら荘」という。
主人公・マリーはばるはら荘の職員で、正体はなんと亡き魔王の孫娘。老いさらばえた勇者たちなら簡単に仕留められるだろうと復讐を企み、素性を隠して入居者のお世話をしながらスキをうかがっている……のだが、何しろ相手は国家レベルの猛者だった人々。一筋縄ではいかない。
ボケて攻撃魔法を撃ち込んでくる元・大魔導師をはじめとする難あり老人たちにふりまわされまくり、介護士の苦労と意義を身に染みて痛感させられていく。
もはやひとつの戦場ともいえる高齢者介護の現場で、マリーの潜入ミッションが迎える結末やいかに?!
という具合に、“ファンタジー世界の老人ホーム”という着想でユニークな趣を帯びた作品である。
ケアマネージメントの概念など現実の老人ホームを引き写した描写が多いところは、まじめに勉強になる。要介護者の抱える心理、介護側が身につけておくと役立つ介助のテクニックその他、読者にもいつか(あるいは今)必要になるかもしれない情報がみっちり詰まっている。
「家族が介護の問題に直面して何をしたらいいか分からない時は、まず自治体委託の相談窓口に!」など、新人介護士のマリーが教わる形で基本からレクチャーしてくれる親切設計だ。
一方で、ヒロイックファンタジーの“その後の世界”を描くタイプの作品としても注目のしどころがある。
強大な力をふるい、充分すぎるほどの功績を成した勇者たちはその後どうなるのか? ある者は語り部となって歴史をつむぐかもしれない。あるいは無理に戦場へ戻ってあえなく散るかもしれないし、または後継を育てて新たな伝説の礎となるかもしれない。
しかし、世の中そうドラマティックな人生の第二幕を許される人間ばかりではない。多くの場合、ただ単にリタイアを遂げ、ただ単に力を持て余し過去の栄光の影にひそむ年寄りがひとり出来上がるだけだ。
そういうミもフタもなさを隠さず、そのうえでなお人に寄り添う空間としてばるはら荘は成立している。
平和な時代を迎えて老害化した英雄たちが社会問題となり、まとめて放り込むための施設が必要になる……。要約してみるとかなりアクの強い舞台仕立てなのだが、どこまでもドタバタとコミカルな雰囲気を守って、読み味はあくまで軽妙なのがいい。
シビアなものをシビアなまま、それでも辛気くさくならないように表現するのは難しいことだが、本作はそれに上手く挑んでいる。
©岡村アユム/マッグガーデン