2021.01.27

【インタビュー】『下を向いて歩こう』湖西晶「離れていても孤独じゃない、現代的な距離感を描く」

和歌山にある民宿の娘、由良硝子(ゆら・しょうこ)。家の手伝いが忙しくて友達と遊ぶ時間がないため、趣味は「ビーチコーミング」(海岸に打ちあげられた貝殻などを拾うこと)や読書といった、ひとりでできるものばかり。

今日もひとり浜辺を歩いていた硝子は、金色の髪と青い瞳がまぶしい女の子・美浜シエルに遭遇する。その出会いは彼女にとって、これまでに拾ったどんなものよりも大切な宝物になった──。


単行本1巻書影

『下を向いて歩こう』の完結巻となる2巻発売にあわせて、作者の湖西晶先生にインタビューを実施。本作の制作経緯から、湖西先生の20年近いマンガ家キャリアの始まりまで、たっぷりお伺いしてきました!

(取材・文:ましろ/編集:八木光平

敷居の低さがビーチコーミングの魅力

──海辺の町を舞台にした作品だと、釣りやダイビングをテーマにすることが多いと思いますが、『下を向いて歩こう』でビーチコーミングを題材にしたきっかけは何だったのでしょうか。

湖西晶先生(以下、湖西):私自身、昔から海岸で貝殻や石を拾うのが好きだったんです。「ビーチコーミング」という言葉は大人になってから知ったんですけど、いつか自分のマンガでも描いてみたいとずっと思っていました。

──今もビーチコーミングはしているんですか?

湖西:はい。2ヶ月に1回くらい、自分の子どもたちと一緒にやってます。大阪の南部に住んでいるので、作中の舞台になっている白浜にもよく行きますよ。


和歌山県白浜町が舞台

──ビーチコーミングの魅力はどんなところだと思いますか?

湖西:珍しいものが見つかればもちろん嬉しいですし、何よりも敷居の低さじゃないかと。釣りやダイビングをするためには道具が必要ですけど、海岸を歩くだけなら小さな子どもと一緒でも楽しめますから。

──季節によって拾えるものが変わったりするのでしょうか。

湖西:そうですね。まさに今、冬の時期がビーチコーミング的には旬といわれています。逆に夏はあまりおすすめしません。

──そうなんですね。潮干狩りのように、夏にするものというイメージがありました。

湖西:夏は海水浴客が多くて、その人たちに貝殻を踏まれたり先に拾われたりしちゃうんですよね……。あと、首の後ろがめっちゃ日焼けする。


夏にビーチコーミングする際はご注意を

それに、言い方は悪いですが冬は海の生き物が死にやすいので、海岸に打ちあげられるものが増えるというのも理由のひとつです。

──これまでに拾ったものの中で、一番珍しいものは何でしたか?

湖西:「大日本帝国」の刻印がある硬貨や、イルカの背骨を拾ったことがあります。イルカの背骨は状態のいいものだと1万円くらいで取引されてるみたいですけど、私が拾ったのは小さいやつなので売れてもせいぜい2千円でしょうね。

離れていてもスマホを通じてつながる、現代的な女子高生の距離感

──湖西先生の代表作である『かみさまのいうとおり!』と、今作の『下を向いて歩こう』はどちらも女子高生4人のお話ですが、キャラクターの関係性の描き方はだいぶ変化しているように感じました。

湖西:そのへんはわりと意識しましたね。『かみさまのいうとおり!』は2003年に始まった作品で、ガラケーはすでにあったものの、当時の女子高生たちは学校の中でも外でもいつも一緒にいるのが当たり前だったと思うんです。

けれど今はSNSが普及した結果、友達同士であっても常に一緒にいる必要はなくなった。たとえ違う場所にいても、写真を投稿して「いいね」してもらえたら、それは彼女たちにとって「一緒に遊んだ」ことになるんじゃないかなと。

『下を向いて歩こう』でも、硝子が草むしりしているときにタンポポの写真をシエルに送ったり、停電した回でさざれとすさみんがメッセージをやりとりしていたり、離れていてもスマホを通じてつながっている現代的な女子高生の距離感を自分なりに取り入れて描いたつもりです。

──4人でビーチコーミングをしに行って硝子が単独行動してしまったとき、「でも引いたりしないんだろうな」とみんなを信頼しているシーンが印象に残っています。

湖西:ビーチコーミング自体、誰かと一緒にしていてもずっと下を向いていて、自分の視界に意識を取られていることが多いんですよね。だけどそれは孤独なわけでも、他の人を拒絶しているわけでもない特別な時間で。


ひとりだけど、独りじゃない

そして、珍しいものを拾ったら顔を上げてみんなと嬉しさを共有する。ビーチコーミングは昔から世界各地で行われていますが、ある意味で現代の価値観にあった楽しみ方なのかもしれません。

──主人公の硝子のキャラクターはすんなりと決まりましたか?

湖西:硝子に関しては、初期案のころからほとんど変わっていません。というより、前に連載していた『〆切ごはん』がひとり暮らしの主人公が時短メシを作る作品だったように、『下を向いて歩こう』も硝子がずっとひとりでビーチコーミングをする作品になる予定だったんです。

──『〆切ごはん』に出てくる料理、真似して作ったことがありました。

湖西:ただ、料理マンガならそれでも成立するけど、ビーチコーミングで同じことをするとマニアックすぎるかなと思って、シエルやさざれといった他のキャラクターを追加した感じです。

──硝子は見た目も性格もクールだけど人付き合いが嫌いなわけじゃなく、ノリのいい一面があるところも魅力的なキャラクターだなと思います。

湖西:真面目な子で色々考えすぎちゃうから、初対面の人と打ち解けるのに時間がかかるんでしょうね。一度仲良くなるとぐっと距離が近くなるタイプ。硝子はグイグイくるシエルのことを「重い」って言ってますけど、実は硝子のほうが重い女なんじゃないかと。


クールだけど、好きなことに対しては熱い硝子

今作では「きれいな湖西」を見せたかったNEXT

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