2021.01.23
王子を守るために男から女になってしまった従者…!幼馴染で主従、ふたりの関係と気持ちが大きく揺れ動く!性転換ファンタジー(TSF)ラブコメ!『親友王子と腰巾着 〜推しの王子に求婚されて困ってます〜』真籠縁, 流星ハニー【おすすめ漫画】
『親友王子と腰巾着 〜推しの王子に求婚されて困ってます〜』
本日ご紹介するのは、小説投稿サイト「小説家になろう」の投稿作を商業Webマンガ誌「コミックポラリス」でコミカライズした『親友王子と腰巾着 〜推しの王子に求婚されて困ってます〜』。
とある洋風ファンタジー世界の、とある王国。そこでひとりの王子が襲撃を受けた。とっさに付き人の若者が割り込んで防いだため王子は無事だったが、身代わりに傷ついた従者は……男から女になってしまった! 幼馴染で主従、ふたりの関係と気持ちが大きく揺れ動く!
てな具合に、さくっと本題に入ってメインキャラふたりに焦点を絞ったコンパクトな展開が小気味いい、性転換ファンタジー(TSF)ラブコメである。
まず王子の名はヴィンセント、愛称「ヴィー」という。
クールで颯爽とした見た目よし、学業にも武芸にもすぐれ、社交の場でもてはやされる次期国王。まさに完璧王子様だ。そのハイスペックぶりで大勢の貴族令嬢から熱視線を注がれること数知れず、しかしモテすぎたのがアダとなる。王子を射止めようとする令嬢同士で争いが起こり、そのなかの誰かが暴走したのだ。
王子を他の女の手に渡したくない、ならば……と、襲撃者が選んだ手は恐ろしい黒魔術。そう、かかったものを女に変える呪いだ。
そんな呪いを代わりに受けたのが本作の主人公、王子の従者・レノアである。彼は幼いころから王子の遊び相手の役を任じられ、ご機嫌うかがいに精を出す──いわゆる“腰巾着”のポジションを自覚的にやってきた。立場が弱い下級貴族の息子としての処世術だ。
王子のいうことに何でもはいはいと従うイエスマンだったレノアだが、ここへきて受け入れがたい求めに直面する。女になったまま呪いが解けない彼(?)に対し、ヴィー王子は「責任を取ってレノアを自分の妃に迎え入れる」と宣言してしまったのである。
ヴィー王子の決意はかたい。もともと王子は、身分狙いの令嬢たちに迫られ続けた反動で女性不信になっていた。それが気心の知れた親友、しかも命がけで自分への忠誠を示してくれた相手が女性となった意味は大きい。そこにはこの世にただ一人、絶対の信頼を置ける女性が現れたことになるからだ。
「お前を娶ればもう女問題で悩まなくて済む!!」
こじれた王子様の言いぶんに、テンパるレノア。こりゃいかん! 王子の女嫌いを治して、本当の恋人を作らせバトンタッチしなくては!
今までの厚い友情をそのまま男女のアプローチにかえてぐいぐい迫る王子に、うっかりドキドキしてしまうレノアはいつまでオチずにいられるのか……!?
本作のポイントは、レノアと王子との間には単なる立場上の役割を越えて、緊密で強いつながりが元から(←ここ重要)あったことを念押しして描いてあるところだろう。
ずっと隣で相手のすることを見守っていたいと願う、離れたくない相手。生まれた時から一緒で、お互いが世界の中心で、代わりなどいない。唯一無二の大切な存在。
あれ? じゃあもう恋人でもいいんじゃない? 読者にそう思わせ、じっさい王子様もそう思っている。王子の両親である国王夫妻も、まあレノアが女になったんなら王子の伴侶にうってつけだよね、と受け入れ態勢が出来上がったりする。
つまり、よくよく見ればあとはもうレノアの気持ちしだいというところまでリーチがかかっているわけだ。レノアが女になったから恋が生まれるのではなく、すでにしっかりとあった関係に恋のかたちを与える物語という見方ができよう。
そうした手堅いお膳立てのおかげで、最後の一線を残してドギマギあわてふためくレノアを安心して見守れるのが本作の醍醐味だ。
ちなみにWeb小説のコミカライズというものは、商業小説化を経てそれがマンガになる場合と、Web小説版をもとに直接マンガになる場合があるが、本作は後者にあたる。
コミカライズ担当の流星ハニー先生は原作のWeb小説版で挿絵イラストを寄せていたのがそのまま続投になった人物なので、キャラクター造形含む世界観の解釈に関してまったく心配がないのも強みとなっている。
単行本は2021年1月15日に第1巻が発売。一部の電子書籍ストアでは単話売りが先行しているが、単行本には原作者監修のもと描き下ろしがつくとのことで、今からチェックするならこちらのほうがいいだろう。
©真籠縁, 流星ハニー/フレックスコミックス