2021.01.29
不器用な小学生と大学生の奇妙な同居生活を描いた、やさしく愛おしいハートフルドラマ!『ホームドラマしか知らない』都戸利津【おすすめ漫画】
『ホームドラマしか知らない』
都戸利津先生の『ホームドラマしか知らない』の第1巻が発売されています。
まずはあらすじ紹介から。
”今すぐ消えてしまいたい”小6の夏休み、父親から家を出るように言われた怜央は、再婚した母を頼り義理の兄と初めて対面することになる。彼の前に現れたのは、変人美大生・透介。自由奔放な透介に振り回されつつも、スタートした二人きりで過ごす毎日の中で、徐々に怜央は……? 不器用な兄弟が織りなす、やさしく愛しいファミリーライフ!
小6にして出ていけと言われる
小学生と大学生の同居生活を描いた本作。主人公の怜央は、父親と二人暮らしの小学6年生。両親は彼が幼いころに離婚したこともあり、家事もこなせるしっかり者で、その年齢にしてはかなり大人びた性格をしています。
父が新しい彼女を連れてきても、塩対応でしっかり壁を作ってしまい、結局上手くいかない。父親からしたら、そんな怜央は可愛げが無く疎ましい存在に映り、一方の怜央も、そんな父親とは一層距離を取るという悪循環。実の親子でありながら、親子関係は冷え切っていたところに、父親に転勤の辞令が。
父は何を思ったのか、「これを機に出て行け」と、怜央は住処をおわれることになります。
さすがに小6ですから、出ていけと言われて「はい」と、すぐに出れるわけでもありません。親子関係が悪いと言っても捨てるような真似はせず、きちんと移り住む先は用意してくれていました。その先というのが、離婚した母の再婚相手の息子ということで、一応義理の兄にあたる相手。ボロい一軒家に一人暮らしをしている美大生・透介と出会います。
初めて会う相手と、いきなり同居生活……元々人間不信気味の怜央は警戒心バリバリで待ち合わせ場所に向かいますが、その警戒心は出会ってすぐに解かれることになるのでした。
子供すぎる大学生
というのも、大学生ながらこの透介、驚くほど子供っぽい。可愛いものが大好きで、気になるものがあればフラフラとそっちに向かっていってしまうし、出会ったその日にさっそく迷子になるなど、行動レベルは幼稚園児。
雷が怖くて泣くし、疲れたらすぐにその場で寝てしまうし、出会ってすぐに、「これは自分が面倒見てあげないとダメだ」となるような感じの頼りないお兄さんなのでした。
普通に接していたら面倒くさそうな相手なのですが、小学生にしては大人びており、生活力もそれなりにある怜央からしたら、これが丁度良い相手。これまで見出すことのできなかった「自分の居場所」というものを、彼の面倒を見ることで、見出していくことになります。
もちろん、透介が終始ダメなお兄さんというわけではなく、美術においては類まれなる才能を発揮し、界隈では一目置かれている存在であったり、ふとした時にお兄さんっぽい言動をすることがあるなど、おさえるべきポイントはきっちりおさえており、兄としての最低限の権威みたいなものは保っているように映ります。
良きドラマになる予感
あくまで関係性は対等であり、ふとしたときにその均衡が崩れるときに、ドラマが生まれるという構図。まだまだ生活は始まったばかりで、怜央自身も「自分」をまだ隠している感じがありますが、これがいよいよ小学生らしい言動を抑えられずになったとき、物語に大きな動きが生まれそう。
今のところは局面的にハートフルなホームドラマという域を出ていないですが、ここは様々なドラマを生み出している都戸利津先生ですから、2巻以降、間違いなく大きな感動を生み出してくれることでしょう。そんな確信めいた予感を強く感じる1巻でした。
©都戸利津/白泉社